大道無門 コラム⑪ ウェイト・トレーニングについて

この連載は『月刊空手道』(福昌堂発行)1985年8月号に収録されたものです。肩書は掲載当時のものです

今回はウェイト・トレーニング(以下ウェイトと略記)について書いてみたいと思う。

 最近フルコンタクト系の空手ではウェイトを重視する傾向が高くなり、その重要性も広く認識されるようになってきた。私自身、現役時代からウェイトを稽古に取り入れてきたし、また現在大道塾でも稽古の中にウェイトを体系化して取り入れている。また最近では早稲田大学の窪田登教授を始めとする専門の先生方の研究、努力によって科学的かつ生理学的にウェイトの有効性が明らかにされ、スポーツ界全般にわたってウェイトが浸透してきた感がある。しかし未だにウェイトに対する偏見も根強く、筋肉が堅くなるとか、スピードが鈍る、フォームが崩れるなどという声をよく耳にすそこで私なりの経験に基づいた、空手の補強としてのウェイトについて、それぞれの疑問や誤解について述べてみたいと思う。

 まず、常々いっていることであるが、一般的に空手を始める者は柔道や相撲をする者に比べ、体力が劣っている者が多い。たとえ単なる現象面にしか過ぎないにしても、もともと身体の大きい者が柔道、相撲を志す傾向が強いのに比べ、概して空手の世界に入る者は身体の小さい者が多いのは少なくとも現在までのところにおいては事実であろう。つまり単純に比較した際、スタート時点において空手を始める者は体力・筋力の面でハンディを負っているといっても過言ではないのである。そういった意味から、まず根本的・基本的に空手を学ぶ者は体力・筋力をつけることでこのハンディを少しでもカバーしなくてはならない。

次にこれも当然の話だが、技というものは体力・筋力の裏付けがあって初めて有効になるのである。同じ突き、蹴りについても非力な人間の技よりも体力・筋力のある者の技の方が衝撃力が強いことは明らかである。私自身の経験からいえば、私は空手を始めて現在までの間に数度顔に回し蹴りをもらったことがあるが、それで倒れたことはない。何故ならこれは単純にいって私が首の筋肉を鍛えていたことと、蹴った相手のパワーがなかったということである。ここで先の話に戻るが、ウェイトで筋力をつけた者はパワーこそあれスピードがないという迷信がある。それについていえばそれは突くとか、蹴るといった目的に関係ない余分な筋肉が付き過ぎたためや、ウェイトにのみ傾倒してしまい本来の空手の稽古がおろそかになったためおきる現象であり、バイオメカニズムの理論に沿った方法で目的に合った筋肉を強化し、その上に空手の稽古をコンスタントに続けていけば決してスピードが鈍るということはあり得ない。(さらにいえば筋肉の運動という面から、少々の時間をさいて総合的、または補助的な筋力をつけるために私はウェイトのみならず、相撲などの組み技をすることも効果的であると思う)

 以上、空手を学ぶための土台づくりという意味においてウェイトは非常に大切なのである。

 次に筋力とスピードを年齢による変化という観点から比較してみよう。まず一般的にいってスピードは年をとるにつれて鍛練していない筋力の衰えとともに低下しやすい。しかしスピードに比べて筋力は若いうちに一度身につけたら維持しやすいし、一定期間のブランクがあっても短期間でかなり回復する。空手の稽古として技を重視することは当然大切であるが、足を上げるのも突きを出すのも土台は筋肉であるということを考えれば、技、技といって技万能主義に陥いりウェイトを軽視していては年を取るにつれて実力が急激に低下するのは目に見えている。そういう意味でも筋力をつけることは重要だといえるのである。

 その他のウェイトの利点をあげるならば、第一に効果が重量の数字なり筋力の張りといった具体的なもので確かめられるので興味が長続きするし、人も体つきで認めてくれるので自信につながる。第二にウェイトは一人練習ができるということである。他のスポーツに比べて空手の稽古は一人練習がしやすいという話をよく聞くが、そうはいっても基本稽古や移動稽古の一定のノルマを一人でやるのは決まりきったことの繰り返しであるが故になかなか続けるのは難かしい。それにいわゆる実戦の勘を養うために重要な約束組手やスパーリングなどは一人では学べない。しかしウェイトは一人でできる。そういうことから週二~四回程度の普段の稽古によってスピードを維持することはできるので、ウェイトを練習の一環に取り入れることは何ら問題はないのである。

 さて、それでは具体的にどのような鍛練をしたらよいのだろうか。私は実際のトレーニングにおいては鍛える部位を腕、上体、脚部、首、腹筋、背筋の五つに分けている。基本的トレーニングメニューは以下の通りである。

〇腕、上体

ベンチプレス ラタラルレイズ カールスタンディングプレス

〇脚部

バーベルスクワット レッグエクステンション

〇首

ネックレイズ(ネックフレクション)


〇腹筋、背筋

 これらの中で特に軽視されやすいのが首の鍛練である。柔道選手やレスラーは基礎の段階で首を徹底的に鍛えるが、空手では首の鍛練はあまり重視されていない。しか前号で述べたように実戦を想定したり、また実際に顔を打つルールにおいては首を鍛えるということは非常に重要である。蛇足ながらウェイトをするにあたり、注意すべきことを三つあげておこう。

①ウェイトの前に十分なウォーミングアップをすること。できるなら十分程度の縄跳びでウォームアップをして心肺機能や循環機能を高めてからやるのが効果も上がるし体にもよい。

②フォームを正確に行なう。フォームが正しくなければ苦労して努力して身体を痛めるだけである。

③ウェイトはあくまで空手の稽古の補助であるという認識を忘れてはいけない。