ロシア遠征記

今野章(仙台北支部)

今年から無職となり失業保険と貯蓄で暮らしていた自分に4月26日のモスクワ大会の話が来たのは3月の中旬でした。ちょうど5月の全日本に向けて肉体改造に取り組んでいた自分には絶好のチャンスとばかりに即答しました。大会までの期間、ジャイアンツの清原選手のパーソナルトレーナーで有名なケビン山崎氏の下で学んできた井田さんについてもらいロシア人に負けない体力作りに取り組みました。(格闘技通信に空道専念の為、銀行員を辞職と書いてありましたが銀行員ではありません。人生のロングバケーションとばかりに半導体工場の動力設備保守の仕事を辞職。結果的に空道専念になりましたが・・・。(本部注:東北地区の同階級のN選手の間違いでした)

4月25日モスクワ行きの飛行機に乗る為、成田空港へ。東塾長、京都支部の服部さん、関西本部の伊賀君、石巻支部の鈴木君の5人でモスクワへ向け出発です。空港で驚いたのは外国人の体です。デカいっ!デカすぎですっ!モデルの様なスタイルのロシア人女性を見て「あの長い足でハイ蹴られたら避けらんないかも・・・。」と思っていたら翌日の大会で現実のものとなりました。初めての飛行機は快適でした。大会の計量は当日と聞いていたので10時間のフライトで2回出てくる食事も大変おいしくいただきました。食後、通路側に半身を乗り出しリラックスしていると肩にズシンッと重い衝撃が!振り返ると飲み物を後ろ向きで運んできたスチュワーデスの尻でした。そのパワーに驚きましたが翌日の大会でもロシアンパワーに驚愕することに・・・。

現地時間17:00にモスクワ到着。アナスキン支部長、ゾーリン支部長等の出迎えを受け、TVクルーのインタビューを受ける東塾長。うーん、堂に入っていらっしゃる。自分にインタビューがきたら三流プロレスラーばりのマイクアピールになっていたことでしょう。

空港から東塾長とは別の車でホテルへ…と向かうはずでしたが選手の車はとあるマンションへ。どうやら計量が始まるようです。機内食をしっかり食べてしまったので飛行機を降りる直前に下剤を飲み明日の計量に備えていたのですが…。なんとか計量をパスして車は渋滞の中ホテルへ・・・と向かうはずでしたが運転してくれているロミオの携帯が鳴り、話終えると「はぁー」とため息をつく彼。「何か嫌な事言われたな」と思っていたら車は渋滞の中また計量した場所へ。どうやら別の車で行った伊賀君がリュックを忘れロミオが取って来いと言われたようです。かわいそうなロミオ、伊賀君を恨んでね。

途中、モスクワ市内の道路の両サイドにに空道大会告知の赤い看板がズラリと並んでいて壮観でした。 3時間ほどかかりやっと宿泊するホテル「マリオット」に到着。いいんでしょうか?こんな超高級ホテルに泊めていただいて・・・。ホテルに入った瞬間に「BOOKOFFで立読みするような格好でうろちょろするわけにはいかないぞ」とスーツでいる決心をしました。が、他の日本人選手は思いのほかラフな服装でばんカラさを存分にアピールしておりました。夕食はホテル内のレストランでフォアグラなども出てくる高級料理をいただきました。ちょっと信じられません。こんなリッチなおもてなしで迎えられたのは初めてです。食事しながら会話を楽しむアナスキン支部長は超一流のビジネスマンのにおいがしました。こんな有能な人がロシアで空道を広めている事に頼もしく誇りに思いました。

滞在2日目、今日は試合です。モスクワ大会は当日の午前に予選も行う為、長丁場です。日本人選手の試合は予選後の開会式が終わった13時以降と聞かされていましたが10時半に急に伊賀君の試合が行われることになりました。慌てて準備をする伊賀君。試合では動きが固くいつもの実力が出せないまま負けてしまいました。その他の試合は開会式の後とまた連絡が入り控え室にいるとすぐに自分の出番だと呼び出され試合会場へ。アウェイでの試合なのでこんなこともあると予想していたため落ち着いて試合に挑む事が出来ました。 対戦相手の選手は黒帯で手足が長く予想していたロシア人の闘い方ではなく距離を取り闘ってきました。自分はウォームアップ不足もあり寝技で勝負する作戦です。タックルで寝技に持ち込み車締めへ。苦しそうにしていましたが不発。歯を喰いしばり耐える相手選手は猫科の肉食動物のように見えました。立ち技から再開直後、相手のハイキックでバランスを崩してしまい「効果」をとられてしまう。ここで本戦が終わり引き分けで延長戦へ。延長ではマウントパンチで効果と取り渾身の力で膝十字へ。「バキバキバキッ」と膝が壊れる音がしてうめき声が聞こえた後にタップアウト!膝が壊れるまで我慢した相手選手の根性はあっぱれでした。 次の試合が始まるまで5時間ほどの待ち時間がありました。その間はウォームアップのくり返しです。試合会場はアイススケート場の上に作られていたため体がすぐに冷えてしまいます。このようなアウェイならではの経験は精神的に強くなれました。

2回戦、対戦相手はまたもや距離をとり闘ってくるタイプ。ロシアの選手は身体能力が高く素手のパンチの打ち方をみんなマスターしているので打撃のレベルは高かったです。。パンチを警戒していたのですが前足に足払いローキックをくらい転倒!「こ、この技は!」そうです、天才小川英樹先輩の得意技です。本家の小川先輩ほど威力はありませんが(スパーリングでたくさんかけていただきました)かなり研究しているようです。

この技で効果を取られてしまった為、すぐにグランドに持ち込みマウントパンチで効果を取り返し腕十字を狙いましたが寝技タイムアップ。このとき寝技の時間が早いような気がしていましたが実際後でビデオで確認すると16秒しかありませんでした。寝技はこっちが上と判断し試合再開後タックルから膝十字へ。がっちり入り背筋力全開で反り返る。膝が壊れる「バキバキバキッ」と音がしてタップアウト・・・したのですが寝技タイムアップ後だったらしく無効に。悔しさ全開の自分はこの時のタイムもビデオで確認。25秒しかありませんでした。本戦は引き分けで延長へ。寝技でポイントを取れず相手の伸びてくる前蹴りを顔面に一発もらいこれが印象悪く判定で負けました。ロシア遠征に声をかけていただいた東塾長、お忙しい中週2回指導していただいた武山先輩に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

モスクワ大会はバタバタと人が倒れるので見ていて面白いです。元々身体能力の高くウエイトトレーニング重要性を理解し、しっかり行っているロシア人の打撃は脅威でしたが、投げ技と寝技のレベルはまだそれほど高くないように感じました。

大会では「空道」という文字が目立つようにいたる所にあり大会運営側が「空道」を世間に認知させようという強い姿勢が感じられました。日本では「空道」という名称をあまり好ましく思ってない人もいるのではないでしょうか?長年やってきた空手に対する誇り、認知度、いろいろな理由があると思いますが今回のロシア遠征で「格闘空手」から「空道」への名称変更は、競技発展の為の先を見たグローバルな考えであるという事が肌で感じる事が出来ました。「KU-DO」という言葉は外国人が発音しやすいようにも感じました。仙台北支部の道場内には「世界」という文字の書かれた大きな垂れ幕があります。岩崎先生がなぜこの言葉を選んだのか少しではありますが分かりました。

滞在3日目は観光名所やボリショイサーカスにまで連れて行ってもらいモスクワ支部の方々には本当にお世話になりました。みなさんが日本へ来た時は必ず恩返しいたします。 今回の遠征で東塾長の空道理念、社会体育理念をダイレクトに聞く事が出来、感銘をうけました。このような機会を与えていただきありがとうございました。

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