モスクワ遠征レポート

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モスクワ遠征レポート

渡辺慎二(浦和・久喜・大宮西支部)

押忍! 今回のロシア遠征の報告です。

本当は、いつものようにさまざまなエピソードを交えながら、面白おかしくレポートを仕上げたかったのですが、なかなか時間も取れずに苦戦中。一方、同行した前原はダルビッシュ並の剛速球でレポートを仕上げてしまったので(笑)、私だけが遅れて話題の旬を逃しても格好がつかんだろうと思い、仮upという形で簡単に(?)報告させていただきます。

今回、私(主審)と前原(選手)とが参加させていただきました大会は「U International Martial Art Match Russian team vs. World team(=第二回国際武道格闘技試合 ロシアチーム対世界チーム)」と言いまして、その名の通り、世界中の代表的な武道格闘技を一堂に会して、ロシアの代表選手と世界中から選抜されてきた代表選手とが、それぞれの競技のワンマッチで戦うというものです。

この大会が凄いところは、ロシアスポーツ省が主催、その傘下組織のロシア武道格闘技連盟が主管している大会であるというところで、あのプーチン大統領も観戦に訪れるという点です。

日本に例えれば、「文部科学省が主催、日本体育協会の事務取りまとめで、全武道を一堂に会する“武道の祭典”を開きます。つきましては剣道、柔道、空手道など各武道連盟、協会は、各々の日本代表選手を一名選び、同時に世界各国からその対戦相手を招聘して、試合を行ってください。ちなみにこの大会は天皇陛下も直接来場され、ご覧になられます。」というのと同じレベルですから、その規模の凄さ、名誉の大きさ、それに伴っての各団体の力の入りようが容易に想像つくかと思います。

第二回大会となった今回は、試合順にITFテコンドー(北朝鮮)、柔術(スウェーデン)、総合格闘技(タジキスタン)、芦原空手(ドイツ)、武術散打(ベラルーシ)、松濤館空手(ベルギー)、K−1(スイス)、カポエラ(ブラジル)、コンバットサンボ(韓国)、空道(日本)、ムエタイ(アメリカ)、極真空手(南アフリカ)、相撲(ハンガリー、ポーランド)、キックボクシング(アメリカ)の14種目16試合を実施(※カポエラと相撲は男女それぞれで二試合)。14ケ国から選手が集まっていました。

会場の様子

会場の様子は、写真を見てもお分かりだと思いますが、大変にショーアップされた派手なものでした。大きなアリーナの真ん中に、リングと畳(ジョイントマット)の試合場が併設され、その周りは鉄骨でやぐらが組まれ、スポットライトがまぶしく光っています。壁の一方には巨大なオーロラビジョンが設置され、そこ(中二階の高さ)から試合場まで花道が設けられています。選手入場の際には、そのオーロラビジョンが左右に分かれ、スモークが焚かれる中、国旗を持つマッチョマンを先頭に選手が登場。花道を通る際には次々と炎が上がり、観客も大盛り上がりで、国旗を振りながら「ロシア! ロシア!」の大合唱、とまぁそれはそれは凄いものがありました。

さて、そのような中で行われた前原の試合ですが、そんな「ある種異様な」、「完全アウェイ」の中にも関わらず、彼女は落ちついて堂々と試合に望みました。

結果は、先に掲載されている彼女のレポートの通り、残念ながら本戦で「効果2」、延長で「有効1」を取られる完敗でしたが、自分よりも一回り大きな相手(※)に殴られながらも、勇敢に最後まで試合をあきらめずに前に出て反撃を続ける前原にも大きな拍手が贈られた試合でした。

※編集部注:前原選手は現在身体指数(身長+体重)207、対するビコワ選手は身体指数217(2005年世界大会時のデータ)

アナスキン大道塾モスクワ支部長は前原に対し「本当にまれな選手だ」(つまり「なかなかいない優秀な選手だ」ということでしょう)と評価し、他の武道格闘技の指導者の数名の方からも、お世辞でなく「彼女はベリーグッドだった」「リトルサムライだ」と賞賛をいただきました。

ちなみに前原を「ベリーグッドだ」「リトルサムライだ」と評価していただいた方の中には、トムハーリック会長(オランダ、ドージョーチャクリキ会長、元ピーターアーツの師匠)、ヴォルクハン会長(ロシア、元リングスで活躍したプロレスラー、現在は全ロシアサンボ連盟の代表)、来賓で来られていた元柔道(世界?)チャンピオンの方などがいらっしゃいました。

また、前原はその闘い振りだけでなく、その前後の礼法もきちんとしていたのが素晴らしかったです。 武道は海外で大きな評価をいただいています。それは強さだけでなく、強さを求める過程で身に着けた自制心、己を律する心に敬意を表していただいているのだと思います。 今回、それを象徴するような事件が二つありました。

まず一つは試合後のことです。
私はそのシーンは直接見ていないのですが、前原が負けてうなだれていると誰かにガバッと腕をつかまれてビックリしたそうです。誰かと思ってその人を見ればとてもそのようなことをしそうにない美しい女性で二度ビックリしたそうですが、その彼女が興奮して「あなたはベリーグッドだった」としきりにしゃべっている。前原は戸惑いながらも(通訳の人を介して)「そんなことはありません。ビコワ選手は強かったです」と答えたら、「ビコワなんて全然ダメ。彼女は頭が悪いから!」と答えたというのです。
「頭が悪い」という表現はどうかと思いますが(苦笑:通訳についてくれた人は一般の学生でプロではありません。なので直訳過ぎて微妙にニュアンスが違っているのでないかと思います)、私が想像するに、要はその女性の言いたかったことは「ビコワの態度や物腰に武道を学ぶものとしての品位、美しさに欠けている。その面も含めて見れば、あなたの闘いぶりのほうがずっと素晴らしかった」ということではなかったかと思います。

実際のところ、今回はビッグイベント(言葉を変えれば「お祭り」)であったせいもあるのでしょうが、ビコワは試合前から腕をぐるぐる回して観客を煽ったり、その興奮のままで試合直前の礼では何度注意しても結び立ち一つキチンとできなかったりと、その他色々と問題のある行動が多く、正直、私の目から見ても、強さは認めるものの、その言動にあまり品位を感じません。単純にまだ若いということだけかもしれませんが・・・。

また、もう一つのエピソードは、大会前々日の話です。

その日はフリータイムだったので、一日観光に出ていたのですが、ホテルに帰ってみると妙にロビーがざわついている。何かと思えば「某選手が酒に酔って暴れた」というのです(一応名前は伏せておきますが、プライドでも活躍していた有名なチャンピオンと言えば、誰でも分かるでしょう)。トイレに行ってみたら、二つある大用のトイレのドアが二つとも壊れてなくなっていました。またよく噂されることに(プロの「興行」の世界ではどこでもよくあることなのでしょうが)彼はロシアンマフィアと繋がりがあり、日本で稼いだ莫大なファイトマネーもそちらのほうに取られて、彼の元にはあんまり残らないのだとか。「そういえばあの選手は奥さんともうまくいっていないのよねぇ」などと、ロビーの人たちがゴシップ話に花を咲かせていたというところに私たちが帰ってきて「何、 この雰囲気?」という状況だったようです。

このような話を聞くと、とても切ない、いやな気分になり「どういう強さを求めるのか? 何のために強さを求めるのか?」と自問自答せざるを得ません。

今大会は空道のほかに、様々な武道、格闘技が一堂に会する大会でした。観客にはそれぞれの武道格闘技を横比較して評価される、難しい試合でした。「○○はエキサイティングだけど、××はつまらない」とか、「△△はレベルが高いけど、□□は低いな」とか。そしてわれわれ武道の代表としては「プロのショー格闘スポーツとは違う、武道ならではの美しさの表現」が加えて求められる非常に難しい大会でした。

前原はその難しい状況の中で自分を見失うことなく、勇敢に、美しく闘いました。結果は残念でしたが、空道の、武道の魅力を伝えるという、最低限かつ最大限の仕事はできたのではないかと思います。

いつもいつも海外に出かれると素晴らしい勉強をさせていただくことができます。これも全て空道に出会え、塾長に出会えたおかげです。本当に、本当にありがとうございます。今回もこのような機会をいただけて、本当に感謝しております。

最後に、日本の女子選手の皆さん、頑張ってください! 空道のチャンピオンは最も強いと同時に武道として最も美しい態度、物腰を表現できる選手がなるべきです。美しく勇敢な大和撫子の魂を見せてください。私も、前原も、今後更に練習を重ねます。来たる第三回世界大会では、力の限り、共に闘い、必ず日本にタイトルを取り戻しましょう!!押忍!!

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