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一般社団法人全日本空道連盟は5月8日付で「特定非営利活動法人 日本ワールドゲームズ協会」に入会を承認されました。この事について空道連盟理事長・大道塾代表師範東孝塾長にお話を伺いました。数回にわけて掲載します。

このインタビューのインデックス  >  その4 「これからの空道の課題」

これからの空道の課題
ルールについての課題

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次に団体としての課題について伺います。
「日本体育協会(JASA)」、「日本オリンピック協会(JOC)」と共に、日本のスポーツ界の大きな柱ともなっている「日本ワールドゲームズ協会(JWGA)」への加盟を実現し、言わば「公的団体」全日本空道連盟として今回の体力別大会を振り返った時、今後にどのような課題を持たれたでしょうか?

一つは判定に関してですが、今後は審判に監査役をつける必要があるのではないか?という事です。私は大会審判長として全試合を見るために本部席にいます。実際には二面でなので、もう片面は高橋英明副審判長が担当していますが、来賓との挨拶、役員、委員への指示など理事長としての業務もあり、片面にしろ全てを見ていることができません。その為にも今大会では痛恨の見逃しをしてしまいました。選手には謝罪の言葉もありません。
そういう事のないように、これは伝統ある団体では行われている方法ですが、今後は、各コートの審判団のジャッジに見落としや、ルールの判断違いを指摘するための“監査役”をおこうと考えています。

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課題の一つは審判団の客観視とジャッジの裏付けということですね。

二つ目には審判の世代交代が進み過ぎ、今大会は経験の浅い審判員が多数を占めたということです。
これは武道の世界でもかつてほどの上下関係がなくなり、審判への敬意が薄くなり立場を超えて遠慮会釈のない“異見”や“批判”が浴びせられることへの忌避感もあるのでしょう。(「今の若いものは礼儀を知らない」というのは古今東西の歴史で繰り返されてきたことでしょうがないのでしょうが、それにしても最近は・・・・これで“社会”というものを維持できるのでしょうか。) このことから若手の育成に名を借りて、審判員のポジションを嫌う傾向があります。
しかし今後「空道」を公的競技として確立していくためにはベテラン審判員の豊富な経験と技術力が欠かせません。特にこの先数年は、公的団体として多くの目に晒されます。それにふさわしい審判が要求されます。そういう意味でも、ベテラン審判員を積極的に活用していくつもりです。

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世代交代を急がず、ベテラン審判員の豊富な技術、経験をさらにブラッシュアップして全体的な底上げを図ると。

三つ目には「自力治療」の見直しがあげられます。
-250クラスの決勝戦で、技によるダメージなのか選手自身の疾患によるものか、選手の驚異的なカモフラージュもあり、審判団に判別できなかったという場面がありました。たとえダメージを受けていても、「自力治療」というルール(※1)がある以上、内臓疾患なども含めて考慮してしまうと、単純に判断できなくなるからです。
いまある改定の構想は「ダメージがあるなしに関わらず、判定を順次あげて行く」ということです。始め!で一旦試合が始まったなら、場外や技の中断などで「待て!」が入った場合に直ちに開始線に戻らなかったり、戻っても両拳を上げない場合には、即、『効果』、『有効』、『技あり』と判定を行うということにすれば、審判団による判定のバラつきも無くなり、一瞬一瞬が勝負だと考える武道の考え方にも合致するでしょう。

※1 自力治療について・・・空道ルール「第五章 判定法」第34条
相手の攻撃もしくは自らの攻撃によるアクシデントで怪我をした場合、選手による1分以内の自力治療が認められる。医師が怪我の状態から1分以内の自力治療は不可能と判断した時点で医師・セコンドによる3分間の治療時間を与え、相手選手に効果1を与える。3分以内で治療が完了しない場合、あるいは3分で治療が不可能な場合は「試合続行不可能」としてその時点で試合を止め「技有り優勢勝」と出来る。

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確かに、選手は「勝ちたい」という思いで技によるダメージを隠したり我慢したりすることが無いとはいえません。この改定は事故を防ぎ、選手の安全を確保することにもつながると思います。

国際ワールドゲームズ協会からの指摘について

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ところであらためてお聞きしますが、4月のデモマッチ視察後、国際ワールドゲームス協会側から空道のルールに付いて何かコメントはあったのでしょうか。

先ほども言いましたが、ルールについて国際ワールドゲームズ協会のRon Froehlich会長からは、「エキサイティングでありながら安全性も高い、素晴らしい競技だ」と称賛されました。ルール面では2点だけご指摘を頂きました。

一つは「効果・有効・技有り・一本」の判定システムが分かりにくいということでした。確かに初めて見た場合はボクシング等のKOである「一本」以外の差は、すぐには分かりにくいという事はあるでしょう。審判によって旗の角度が曖昧な場合などは余計そうです。
そこで会長からは点数(ポイント)制にしてはどうかという提案をいただきました。しかしポイントによる判定システムについては、私たちは空道の提唱以前にパンクレーション(※2)のなかで試しています。
ポイント制は結果が数字で表されるので分かりやすいことは事実ですが、護身術の基本であり武道(スポーツ)の起源である「体力差があっても戦う」という考えには合わないと思いました。というのも、ポイント制は軽いポイントを重ねていった方が勝つチャンスが多くなるので、例えば同じ5ポイントでも効果を重ねてとった5ポイントとKO寸前の技有りが含まれる5ポイントの結果が同じでは「より効果的な攻撃を加える」事がおざなりになる可能性があるからです。

※2 パンクレーション・・・2004年アテネオリンピックの公開競技参加をめざした総合武道。「効果」を1ポイント、「有効」を2ポイント、「技有り」4ポイント、「一本」を8ポイントとするポイント判定制を導入した。1999年、大道塾東孝塾長がアジア地区審判部首席、世界連盟審判部に就任した。

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先ほどおっしゃった「一瞬一瞬が勝負だととらえる武道の考え方」にポイント制はそぐわないということですね。

もうひとつはジャッジにおいて主審が2ポイント(副審は1ポイント)をもつことについて「あれでは初めから主審が贔屓出来るのでは」という疑問でした。
しかしこれも北斗旗(全日本大会)の初期のころからのルールの変遷を知っている人には、逆に「審判の贔屓を極力なくすための対応である」ことがお分かりになるはずです。経緯についてお話しすると、早くに統一団体ができた柔道や剣道などと違い、特に打撃系武道(当時は空手でした)は多くの団体が出場するので、初めの頃はどうしても自分の団体に有利な判定を出したり、そこまでしなくても何度も引き分けを出してしまい試合時間が大幅に伸びたりという傾向がありました。
そこでいかにして徒(いたずら)な延長を避け、またより公平なジャッジをするかという観点から、私たちは主審と副主審以外はどんな微妙な差でも必ずどちらかに判定を出し「引き分け」にはできないとしました。しかしその場合、旗の本数では3対1になりますが、ハッキリした差での3対1と、五分に近いが3対1になる場合が出てきます。後者のように『延長戦』でハッキリさせた方が良い場合には、主審が2点使うことで「最高で『引き分け』にまで出来る」という現在のルールを作り上げてきたわけです。決して判定を逆転させることはできません。

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判定については大道塾設立から空道提唱までの20年間に、「公平なジャッジ」を念頭においた試行錯誤の上で現在のかたちが出来上がっている、ということですね。

国際ワールドゲームズ協会側にはこれまでの経緯をよく説明して行きたいと思います。

ワールドゲームズ出場選手の選考について

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ここで2013ワールドゲームズカリ大会(2013年7月25日から8月4日開催)について伺います。ワールドゲームズはオリンピックのように国対抗でなくその競技を代表する選手が競いあうかたちとなっていますが、「空道」の公開競技出場にあたり選手選考はどのようなかたちで進められるのでしょうか。

国内においては今回の2012体力別、秋の2012無差別、来年春の2013体力別の3大会の試合結果により選手の選考を行う予定です。

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具体的には?

現時点においては試合規模が決まっていないので、どの国から何人の選手を出すかはまったく白紙の状態です。というのも、ワールドゲームズ公開競技の試合としてはワンマッチとなる可能性がありますが、2013ワールドゲームズ大会の主催国であるコロンビアの空道連盟が「空道」をより多くの人に知ってもらうためにワールドゲームズと並行してトーナメントによる競技会を開催しようと考えているからです。 これについては今後、国際空道連盟のなかで会議を重ね検討していく予定です。

2012無差別について

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それでは、選考のひとつとなる秋の無差別(2012北斗旗全日本空道無差別選手権大会)にむけ挑戦する選手たちへメッセージをお願いします。

先にも言いましたが空道が世界につながる道に立った今、より高みを目指す選手たちの熾烈な争いが予想されます。これまで以上に日頃の稽古を大切に精進してほしいと思います。

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秋の大会のトピックはありますか?

2011無差別より試行したユーストリーム中継は今回の2012体力別でも12,000以上のアクセス数を記録しました。「空道」という競技や選手を知ってもらうために有効な手段と考えています。今回の「2012体力別大会」では、施設の設備の関係で片面しか放映できませんでしたが、今度の秋の「2012無差別大会」では、これまで要望の多かった「両面コート中継」を実現していくことを調整中です。これまた予算の関係で出来なかった(泣)「試合解説」も行いたいと思います。

(編集部注)「2012北斗旗全日本空道無差別選手権大会」 「2012全日本空道ジュニア選抜選手権大会」は11月10日(土)東京・国立代々木競技場第二体育館において開催されます。

「歴史に残る大航海に」

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それではこれまでのお話しのまとめをお願いします。

既に皆さんもご存じのように、日本ワールドゲームズ協会のサイトで全日本空道連盟の入会が公表されております。このような権威あるサイトでの公認は、一般的には「知る人ぞ知る」だった「空道の知名度向上」には計り知れない影響があるものと思います。
最初に「これまでの「空道」の歴史を船に例えるならば」という言い方をしましたが、もう一度視覚的に表現してみたいと思います(笑)。

1981年の船体建造より20年目の2001年、北斗旗第一回空道世界選手権大会を開催し、まさに「無謀な!」という表現を浴びながら、空道という海路のない旅に乗り出してから12年、独自のアンテナとレーダーを頼りに新しい海路を拓きつつ、同時に度々のバージョンアップにより最新機能船へと変貌した「空道」という大型船が、いま正に、大船団の中に位置を得て、今まで以上に晴れ晴れと、堂々と世界へ通じる大海原へ乗り出すのです。
現場を預かるクルー(役員、支部長、選手など)のみでなく、これまで我々を信頼し乗船して来て頂いた、皆様にも、大海原と大空の日々を味わって頂きながら、歴史に残る大航海としたいものです。

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「歴史に残る大航海」に期待します。本日はありがとうございました。

以上で今回のインタビューを終わります。

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更新日 2012.7.12

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