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2015 USA Kudo Winter Training Camp 報告

報告:秋田支部支部長・師範代
小松洋之

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はじめに

押忍。
秋田支部長の小松です。
塾生各位に於いては正月気分にひたる事無く、年末年始共に厳しく自主練に励んでいた事と思います。

この度、2015年11月19日から24日の間で、初開催となる表題合宿に塾長のご許可のもと指導者及び昇段試験官、兼立会人として参加して来ましたのでここに報告致します。

USA空道の現状と本合宿参加の経緯

2008年のニューヨーク遠征 http://www.daidojuku.com/home/2008/usa/jukucho.html を機にレンタル道場であるFight Houseで同好会を始めていた(現在、テネシー州デイトン大学で教鞭を取っている)広野達志准教授(4級)に合流する形で、現在、ロサンゼル支部長を務めておられる伊藤征章支部長と共に、米国初となる同好会がニューヨークで本格始動したのが2009年。前後して、大道塾総本部の公式セミナー数回、塾長からご許可を頂き私が個人で渡米したセミナーが2回。第4回世界大会を機に5支部に増え、2014年には同大会に向けて米国代表選考会も行われた。
競技人口は未だ決して多いとは言えないが、着実に空道は米国に根付きつつある。そして競技水準は競技人口に比例してはいない。第5回世界大会において、米国代表のイベンダー・ロス選手が、後に全日本-260を制することになる山田壮選手と壮絶な延長戦まで突入した事がその事の証明となろう。

ようやく発展軌道に乗り始めた米国空道に大道塾は期待をしており、私は彼らの発展に貢献したいと考えている。
その様な状況下、伊藤ロサンゼルス支部長とアレクサンダー・コロラドスプリングス支部長の間で昇段審査を含めた本合宿が企画され、昇段審査の試験官兼立会人として、これまでの米国空道との関わりから彼らは私の招聘を実行してくれたのであった。

2014年に行われた第4回世界大会米国代表選考会。
前列右から3番目がアレクサンダー支部長。
二列目右端は山田選手と対戦することになるロス選手。

今回の合宿の告知ポスター。
先の全米選考会に続いて、ネットやSNSを活用した。

コロラドスプリングスについて

合宿が開催されたコロラド州コロラドスプリングス市は都市圏人口65万人。ロッキー山脈の東側、標高1,600mのすそ野に広がる美しい街である。湿った空気はロッキー山脈に遮られる為晴天率が非常に高く、明け方は放射冷却で気温が下がる。私が訪れた11月下旬には、最低気温は-10度にまで冷え込む朝もあった。

アレクサンダー支部長率いるコロラドスプリングス支部は活動開始から2年と日は浅いものの、市内武道館内の1室に既に専用道場を持つに至っている。自身は10月に開催されたパンアメリカンカップ-240で3位になるなど、徐々に空道でも力を発揮し始めており、将来の米国空道を担っていくであろうと期待されている支部長の一人である。

滞在ホテルの前の通り。とにかく空が青い。放射冷却の為この朝の気温は‐10度。

ダウンタウンから、全米一有名な山、スパイクピーク(4,301m)をのぞむ。

スパイクピークのすそ野とアレクサンダー支部長。

稽古内容について

事前に3支部長間で稽古内容を協議している中で非常に嬉しかったことは、伊藤支部長が私に対して移動稽古の要望をしてくれたことであった。空道の技術と精神を理解するのに移動稽古は最も有効な方法の一つである、と言う事で我々2人は完全に一致していた。

協議の結果、合宿は下記の通り行われた。

1日目
15~17時:基本稽古(小松)
17~19時:パンチ技術練習(アレクサンダー)

2日目
9~11時:基本、移動稽古(小松)
11~13時:ルール解説(伊藤・小松)
15~19時:投げ・寝技技術練習(伊藤)

3日目
10~14時:昇段審査

稽古の印象について

フットワークとヘッドスリップからの高等なカウンター技術でさえも平易な言葉と簡素な動きで指導していくアレクサンダー支部長の指導力を確認する事が出来、米国勢の将来は明るいものであると感じられた。

また、掴み打撃から投げ、そして寝技と切れ目のない空道らしい技術を多数紹介した伊藤支部長の稽古では、技術紹介の度に参加者から感嘆の声が上がり、参加者一同、皆満足しているように思われた。

指導者になってしまうと、実は他の指導者の指導を見る機会は少ない。そのような意味からも私自身の勉強にもなる非常に有意義な時間を過ごす事が出来た稽古であった。

伊藤支部長の時間では、技術紹介の度に感嘆の声が上がる。

程なく、全員がほらこの通り。

要点を的確且つシンプルに指導する、アレクサンダー支部長。

基礎の重要性と反復の意味

私が担当した基本稽古と移動稽古に於いては、単純かつ体力的に辛い反復にも拘らず、出席者全員がその意味をよく理解し最後まで集中を切らす事無くやり切ってくれた。

基礎技術と反復の重要性については、稽古前、最中、終了後も、更には懇親会中も繰り返し彼らに刷り込みを行った。

すなわち、

物事の完成を建築物・構造物に例えた場合、大きな建築物や巨大な構造物を構築するには、固い岩盤に根付いた強固な基礎を作る事が必要不可欠である。強固な基礎を構築した後の地上の構造物は如何様にもなる。特に初級者の稽古の大半は基礎の構築に費やすべきである。

また上級者といえども基礎鍛錬を怠ってはならず、常に磨いで、維持のみならずその向上を目指さねばならない。

反復については、何故反復が必要なのかを考え、手抜きの反復、誤った動作での反復が待つ恐ろしい結果を想像してみる事。武道やスポーツのみならず、書道、手芸、諸々、手習いの初期段階の大半は反復である。多くの人間は、初めての事は上手に出来ない。

なぜか? 脳神経に新しい動作の為の信号を通す神経回路がないからだ。円滑に信号を通す為の新しい神経回路を作る作業が反復なのである。したがって、手抜きの反復は問題外として、誤った動作での反復も恐ろしい結果を産む事を意識するべきである。誤った動作から構築された神経回路の元で行われる行動が辿り着く不幸な結果を想像する事は、それほど困難ではない。

今日の反復の結果は明日には出ない。おそらく次の週にも出ない。が、しかし、1年後には差が出る。如実に出る。1年の間に生じた、意識して反復した者と無為に過ごした者の格差は、もう二度と追い付けぬ決定的なものになっているだろう。

といった事を、朝な夕な、口を開く度に話す私の印象は如何なものであっただろう?

塾生各位も上記を充分に念頭に置き、稽古に励んでほしい。

第2日目、稽古後の一枚。 皆、反復の意味を深く理解して稽古に臨んでくれた。

昇段審査

合宿最終日、昇段・級審査を行った。

私は審査の試験官兼立会人として、日本のそれと同等以上の品質で管理を行えたと考えている。審査の始終は動画として記録し、東塾長から昇段の合否判断をして頂く事となっていた。

2014年のセミナー審査の結果、米国には既に支部長として黒帯を持つ者は存在しているが、在米支部に入門して来た者が白帯から順次取得し昇段審査に至ったという事で今回の審査が記念すべき最初の審査であった。

その記念すべき審査に挑んだLA支部のホンダ選手が、基本、移動、各技術を非常に高い水準でこなし、ついには連続組手も完遂しえた事は誠に嬉しい限りである。非常に強い闘志を燃やしつつ感情をしっかり管理する姿から、彼の武道に対する理解度が高い事が見て取れた。私は昇段の是非を判断する立場になかったが、黒帯を取得するに充分な資格を持ち合わせている様に思えた。米国塾生第1号黒帯の誕生の瞬間に立ち会えたとするならば、ましてやその審査を裁かせてもらったとするならば、それは空道家の私にとって限りない喜びである。

昇級審査に挑んだCS支部のブライアン選手やLA支部のミウラ選手、また組手審査に協力してくれた参加者各位の水準も非常に高く、米国空道の未来は明るいと再認した次第であった。

連続組手前の目慣らし。ホンダ選手(左)と遠くヒューストンからセミナーに参加してくれたクリスさん(右)。参加者の技術水準は高く、今後、多くの空道の試合経験を積むことにより世界に追い付く日も遠くないだろう。

ホンダ選手の連続組手。 審査は日本と全く同じ品質で、厳粛に行われた。

オープンマインド

海外遠征中、空とは何か? と質問される事がよくある。以前はその度に拙い英語で、東洋的な空の概念を説明しようと努力してみたものだが、数年前に東塾長からオープンマインドで良いのだとご教示頂き、以来そう答えるようにしている。最近では空道にとってオープンマインドが大事なのでは無く、オープンマインドの為の道具の一つが空道なのだ、とさえ考えている。

本合宿では同一メンバーで3日間一緒に過ごせた為、いつものセミナー以上にじっくり語り会う事が可能であった。CS支部婦人部の皆さんが食べ切れない程の手作りの料理を持ち寄りで開催してくれた道場車座パーティーはまさにその真骨頂であった。技術論議をする者、人生観を語り会う者、一芸を披露しあう者、感極まって泣いている者。空道をする者とそれを支える家族。そこには日本となんら変わらぬ光景が広がっていた。

空と何かと問われるならば、オープンマインドと我は言う!

稽古が終わると、道場は直ぐに遊び場に。 ひたすら道場を走り続ける、未来の米国空道の担い手たち。

アレクサンダー夫人手作りのランチ。午後からの稽古に備え、皆でエネルギー補給。ご馳走様でした。

肉とビール、そしてまた肉を食べる。我々はライオンなので野菜は不要なのです。燃費の悪いライオンです。(某米国塾生談)

昇段審査後、アレクサンダー支部長が連れて行ってくれた温泉。標高は3,000m超。源泉かけ流し25mプール温泉に癒される。

先の全米代表選考会にも出場したナッシュさん(右端)は世界中を旅しており、話題が尽きる事は無い。皆を爆笑の渦に巻き込むその内容は、四国お遍路中に跳ぶマムシに噛まれた話しであったり、オーストラリアの砂漠のサバイバル訓練で牛の排せつ物で必死に命をつないだ話しであったり。それも全て稽古です。(本人談)

おわりに

突出するロシアを日本が追走するという2強体制の世界空道であるが、そこにもう一つの核が加われば、事態は一気に複雑化するのではないだろうか? そう、「項羽と劉邦」より「三国志」の方が複雑で面白いではないか。以前から私が米国空道の発展を望む理由がそこにある。単純な潜在能力的にも地政学的にも、日露に伍する核を作るとした場合、それは米国こそ相応しいのではないかと確信している。

この度初の試みとなった本合宿と昇段審査は、一昨年の第1回全米トライアウトに続き米国空道史に残るマイルストーン(一里塚)である。関係者一同、定例化をすべく今後も努力を続ける事を約束している。米国空道がようやく軌道に乗り始めたと、嬉しくかつ心強く感じている。

微力な私ではあるが、今後とも米国空道の発展に貢献したいと考えている。

謝辞

本合宿と昇段審査の開催にあたりまして、改めてこの場をお借りしまして感謝の意を表します。

開催ご許可下さいました東塾長へ御礼致します。通常、正式なセミナーにおいて日本からの指導員は2名以上でなければならない所、特別なご配慮をして下さいましてありがとうございました。

伊藤支部長、アレクサンダー支部長、このような私を招いて下さりありがとうございました。今後とも米国空道の発展のお役に立てる様頑張ります。

アレクサンダー夫人、CS支部婦人部の皆さん、おいしい料理、楽しいパーティーありがとうございました。 涙もろいミウラさん、通訳、ありがとうございました。

全て稽古なナッシュさん、クリスさんとNASAの皆さん、遠路遥々ありがとうございました。

渡辺慎二支部長、稽古内容についてアドバイスをありがとうございました。 秋田支部の皆さん、支部を空けっ放しにした支部長の不在を良く守ってくれてありがとうございました。

押忍

合宿初日稽古後。ほんの数時間前までは他人だった我々。セミナーの度にいつも思う事。

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更新日 2016.1.20

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