報告:全日本空道連盟 副理事長
高橋 英明
塾長から、「こんなのが来ているが、行ってみるか?」というメールをいただいたのが8月末のことで、Pre-Branchとして新しく国際空道連盟への加盟が認められたインドネシア連盟から、空道を普及するために1名の指導員を派遣し、セミナーを開催してほしいという要望でした。
インドネシアと言っても広くて地域によっては治安の問題もあるし、彼らとの面識もまったくないので躊躇はしましたが、基本的には機会があればどこへでも指導に行ってあげたいと思っているので、セミナー開催の要望を受けることにしました。
その後、インドネシア側とのやりとりを進め、最終的に首都のジャカルタで5日間のセミナー(うち2日間はパブリックセミナー、残りの3日間はインドネシア空道連盟のコアメンバー4名を対象とした指導)を開催することとし、合計24時間の指導メニューを用意しました。
日本を出発したのは11月24日(木)の早朝でしたが、この日の東京は11月としては数十年ぶりの雪予報で、家を出たときはみぞれが降っており、一方ジャカルタは32℃の予報であり、30℃を超える気温差がありましたが、冬は東京とスキー場との間で30℃近い気温差のところをよく行き来しているので、あまり気にすることもないなと思い、向こうにあわせて、雪の中をサンダル履きで出かけました。
インドネシア共和国は、人口が約2億5千万人と日本の倍であり、世界で第4位の人口の国です。またセミナーを開催した首都のジャカルタは、近郊を含む都市圏人口が約3千万人と、東京を上回る巨大な都市圏です。
ジャカルタの空港に到着したのは現地時刻で夕方でしたが、空道連盟のコアメンバー4名が出迎えてくれました。ホテルに入る前に、インドネシア料理のレストランで夕食。湖畔のきれいなレストランでしたが、世界最大のイスラム教の国ですので、アルコールは影も形もありません。
写真1:インドネシアのコアメンバーと
写真2:湖上でしたが暗いのでよく見えず
日本との時差は2時間なので、腕時計は日本時間のままとしていましたが、この日はホテルに入ったのが日本時間の深夜でした。朝に家を出てのことですから、近い国です。
翌朝は、日本時間の10時にホテルを出て、コアメンバー4名を指導する場所であるジムに移動。ここは、メンバーの中のひとりが経営する所で、毎日早くから日中は女性がエクササイズ、夕方以降はボクシングとムエタイのジムになっているようで、人の出入りが絶えないようでした。
初日は、午前に2時間半、今後インドネシアで指導する立場の者達であることを念頭に入れて基本稽古と移動稽古をみっちりと指導。午後は投げを2時間半、基本的なことから指導しました。
この後も毎日、ホテルを出るのが日本時間の朝10時頃、指導を終わって夕食をとるのが午後6時半頃、ホテルに戻るのが9時頃と、日本の時間でちょうどよい感じでした。安全面も考慮し、ホテルに戻ってからは外には出ず、ゆっくりと休養していました。
土日に開催したパブリックセミナーは、広いジムを利用して、二日間とも午前2時間半、午後2時間半、合計で10時間の指導を行いました。
参加者は17名でしたが、全員、様々な格闘技の経験者で、MMA、ムエタイ、ボクシング、クラブマガ(イスラエルの格闘技)、テコンドー、新極真、合気道等々、バラエティーに富むメンバーでした。ボクシング経験者はインドネシアのチャンピオンで、日本で亀田と対戦したこともあるということでした。一人が複数の格闘技を経験していることが多く、4人のコアメンバーに至っては、ひとり平均6種類の格闘技を経験してきたとのことでした。まあ、格闘技おたくですね。この結果、お互いが色々な場所で顔を合わせていることが多く、一種の格闘技コミュニティを形成しているようでした。
今後海外で指導する皆さんの参考までに、2日間の稽古メニューを紹介しておきます。
セッション1(2時間半)
@基本稽古と移動稽古
コアメンバーに号令をかけさせ、時間の関係上、基本稽古の突きは上段のみを指導。
A突きに対する防御と反撃
時間の関係上、対ジャブ、対ストレート、対ワンツーのみで数パターン。
B蹴りに対する防御と反撃
時間の関係上、対中段回し蹴り、対下段回し蹴り、対前蹴りのみで数パターン。
セッション2(2時間半)
@掴みと、掴みからの膝蹴り/肘打ち/頭突き
A投げ技
時間の関係から投げを絞り、大外落とし、大外刈り、大内刈り、小外刈り、支え釣り込み足、膝車、首投げ、大腰、体落とし、一本背負いの順番で指導。
B膝蹴り/肘打ち/頭突きからの投げ
セッション3(2時間半)
@基本稽古
突きは中段も指導。
A絞め技
裸絞め、送り襟絞め、片羽絞め、十字絞め、三角絞め、袖車の基本動作を指導。
B関節技
・大外落としからの腕ひしぎ十字固め
・首投げからの袈裟固めと膝固め
・中段回し蹴りをキャッチして大内刈りからのアキレス腱固め
・中段回し蹴りをキャッチして大内刈りからの膝十字固め
・横四方固めからの腕がらみ3種
Cタックルと、ディフェンスからの反撃
ディフェンスは、以下を指導。
・タックルを切ってからの絞め(送り襟絞め、片羽絞め)
・タックルを切って背後に回ってからの絞め(片羽絞め、裸絞め
・膝蹴りでのカウンター
・タックルを受けて尻餅をついたあとでのスウィープ
セッション4(2時間半)
@グランド
・下になって距離がある状態から、草刈り/アキレス腱固め/膝十字固め
・ガードポジションから、スウィープ/十字絞め/腕ひしぎ十字固め/三角絞め等
・マウントを取られた状態から、反転する/下からの打撃
・ガードポジションの上から、乗り越える/つぶす→ニーインザベリー
・相手に片脚を絡まれた状態から、十字絞め/膝十字固め
・マウントをとったあとでのポジションづくり
・マウントからの腕ひしぎ十字固め/ニーインザベリーからの腕ひしぎ十字固め
A先手での連続的加撃
・ジャブから突きと蹴りのコンビネーション
・ストレートから突きと蹴りのコンビネーション
・左フックから突きと蹴りのコンビネーション
・左前蹴りから突きと蹴りのコンビネーション
・右前蹴りのフェイントから突きと蹴りのコンビネーション
・右下段回し蹴りから突きと蹴りのコンビネーション
・スパーリング
B打撃・掴み・投げ・グランドのコンビネーション
・右の下段回し蹴りを外してからの打撃・掴み・投げ・グランド
・左インローを外してからの打撃・掴み・投げ・グランド
・上段回し蹴りを外すないしブロックしてからの打撃・掴み・投げ・グランド
・ジャブを外してからの打撃・掴み・投げ・グランド
・ストレートを外してからの打撃・掴み・投げ・グランド
・ジャブからの打撃・掴み・投げ・グランド
・ストレートからの打撃・掴み・投げ・グランド
・左フックからの打撃・掴み・投げ・グランド
・左前蹴りからの打撃・掴み・投げ・グランド
・右前蹴りからの打撃・掴み・投げ・グランド
・右下段回し蹴りからの打撃・掴み・投げ・グランド
C護身術
相手の組み伏せかたを中心に、6種類ほどを実施。
空道のルール外の動作ではありますが、空道ルールの延長線上にある実践的な護身術として、指導しました。
全員が何らかの格闘技の経験者ということもあり、予定した数多くのメニューについてスムースに指導を進めることができました。基本稽古も、指摘したことをすぐに動作に反映できていました。写真を見れば、よく分かると思います。対人の稽古では、もっとも屈強そうなMMAの選手などをつかまえて、容赦なく見本を示しました。「容赦なく」というのはどういうことか、新宿支部の塾生はわかると思います。
結果として、非常に充実した内容の2日間のセミナーでした。
写真3:基本稽古(1)
写真4:基本稽古(2)
写真5:基本稽古(3)
写真6:基本稽古を終えてからの結び立ち
写真7:送り襟絞め
写真8:膝十字固め
写真9:スパーリング
写真10:セミナー修了後の集合写真
写真11:セミナー会場のジム
写真12:この2階でセミナーを実施
二日間のセミナーの翌日は、午前に3時間かけてコアメンバー4名(31才が2名の他、36才と37才)の昇級審査を実施。基本稽古や移動稽古は日本での黒帯審査と同様に、それぞれ交代で各自に指導のポイントを説明させながら号令をかけさせました。その後は、通常の審査手順に則って実施。4名だったので、組手審査は総当たりで各自が格闘ルール、組み技ルール、グランドを各1回実施。来年の2月に来日して昇段審査を受けたいというので、その予行演習も兼ねて、一通りの項目を実施しました。
審査結果は、基本(突き/蹴り)、移動(突き/蹴り)、受け身、投げ、絞め技、関節技、立ち技毎に、◎/○/△/×をつけて塾長に提出しましたが、×を付けた者はいませんでした。 審査を終えた午後は、インドネシアでの今後の稽古のパターンのひとつとして、次の内容の稽古を2時間実施しました。
・基本稽古(号令は、インドネシアメンバー)
・ミット練習を3分8ラウンド
・技研として、投げ、組んでの加撃、および掴み・加撃からの投げ
・投げからグランドスパー
その翌日の午前も、インドネシアでの今後の稽古のパターンのひとつとして、次の内容の稽古を2時間実施しました。
・基本稽古(号令は、インドネシアメンバー)
・移動稽古
審査用の移動稽古ではなく、新宿支部のフルメニューの移動稽古を実施。3分を12セット。セットの合間にへたり込む者を、「座るな」と叱咤し、汗だくになりながらの45分間。私自身も同様に動いているので、絶対に容赦はしません。
・NHGを被っての、対ジャブ、対ストレート、対左フックの基本練習
・パンチと蹴りだけでのライトスパー
・護身術の基本動作の復習
・最後は、道場訓を唱和して終了
その後は、昼食をとりながら、2時間の空道ルールの講習を実施。記憶に基づいて一通り説明しましたが、大会規則の95%以上は説明できたと思います。
また、インドネシア側からは、指導にあたっての、例えば「先輩に礼」「組手立ち用意」「左45℃」「蹴りの用意」等々、日本語での号令のかけ方を聞かれ、いろいろと教えました。
基本的に、観光で出かける時を含めて、海外では現地の料理のみを楽しむことにしています。今回は、一言でインドネシア料理と言っても、インドネシアは広いので、各地の料理をごちそうになりました。「今日はどこどこの地方の料理だ」と言われても覚えられないのですが、ジャワ地方の料理だけは、「ジャワニーズ」と言うことで「ジャパニーズ」に発音が近いので、分かりました。
ローカルフードの店にはアルコールは置いていませんので、飲み物はジュースとか紅茶です。しかし、日本料理や西洋料理のレストランでは、アルコールも出しているそうです。イスラム教の国なので、豚肉は食べません。鶏肉と魚が中心ですが、牛肉は乾し肉が多かったように思いました。スパイシーな料理がほとんどですが、私は更に唐辛子をかけて食べたいと思うほど、強い辛さはありませんでした。インドと違い、あまり気を遣わなくてもお腹を下す心配はしなくてよいようでした。
写真13〜16:食事風景
これまで、10時間程度の指導をしてきた国としては、スペイン、メキシコ、ドイツ、インドがありましたが、前述のように、今回は全員が様々な格闘技の経験者であったことから一定のレベルにあり、もっとも充実した内容の指導ができました。こちらが指摘したポイントには適確に対応していたので、教える側としてもストレス無く楽しめました。
参加者を代表する発言として、「いろいろな格闘技をやってきたが、ようやく空道でひとつに繋がった。夢がかなった」とか、「ずっと空道を待っていた」というものが印象的でした。私自身も楽しめましたが、参加者は全員、空道への理解を深め楽しんでもらえたと思います。レベル的には、いつでもインドネシア大会を開催できる状態にあると思いましたが、大会を開催するにあたっては審判が必要であり、日本から基本的には5名、最低でも3名の審判を招聘しないと実施できないので、資金を貯める必要があるために来年の11月を考えているとのことでした。もし来年また行く機会があるようであれば、今回のセミナーに参加したメンバーには、もう一段レベルの高い内容の指導ができると、お互いに面白いだろうなと思っています。
日本の黒帯の皆さんも、積極的に海外に指導に行くと、いろいろな点で刺激があると思います。英語での指導は、動詞を100個程度、名詞を100個程度、形容詞・副詞を50個程度覚えれば、完璧にできます。この半分程度でも、十分にできます。私はスペイン語については指導用の単語帳をつくっています。
最後に、いつもの事ですが、楽しい機会を与えていただいた、塾長と事務局長に感謝いたします。体が動くうちということになりますが、どこにでも指導に行きたいと思います。
更新日 2017.1.17