平成14年1月8日
国際格闘空手道連盟 大道塾総本部
代表師範 塾長 東孝
この話は以前ビジネスマンクラスのHPの中で触れられたように、総本部ビジネスマンクラスの師範代の松原氏(東京大学大学院教授)からの紹介から始まりました。氏が非常に現代的なテーマである、“暴力( 単なる“暴力的な暴力”ではなく“力”とか“身体”といった人間の持つ物理的な一面を、インパクトのある表現にする為に使った言葉)”に付いて新聞で触れた所、 「青の門」という映画でこれまた現代的な問題である“閉じこもり”の問題を扱い、第34回ヒューストン国際映画祭正式招待 コンペティション部門 /Silver Awardなどを受賞。更に、社団法人 中央青少年団体連絡協議会推薦や文部科学省選定(青年の部)等にも選ばれた監督・脚本・編集者の坂口香津美氏から(BLUETOWER-MOVIE.com/参照)、最近の若年層による異常な犯罪を下敷きにした“暴力”について考える映画への協力要請があったそうです。
そこから“暴力”ではないが、それと表裏一体の、若年層の(最近では若年層に限らなくもなって来ていますが)“情感喪失”とでもいった、情愛の希薄な風潮から生まれる社会的問題、事件について思うところがあり、しばしばその話をしていた小生の方に、その話を聞かせて欲しいとの事で会いました。
そこで、持論である「人間は感情を持った“肉体”というものがあって人間たりている」とか「男が雄(おす)として力(ここで言う“暴力”)を持った恐い存在でなくなった所から、子供が男親を単なる月給取り(餌を集めてくる“鳥”?)としか捉えなくなり、母性を前面に据えた“優しさ至上主義”とでも言った社会を作り、結果的に躾もできなくなった」。「それが今日の、自分たちの年代の感覚では想像すら出来ないような、大人の恐さ世の中の厳しさを知らない、傍若無人な若者を生んだ。ひいてはそれが凄惨な事件や事故に繋がっている」等と述べた所、多いに賛同されました。
ところがその内、自主映画であり文芸作品なので、資金的に余裕がない事もあるが「東さんが体験され、感じられた話を聞いて、この役は実際に辛い想いをされた東さんにやって欲しい」との話になりました※。まさか小生もいくら自主映画だろうと、そんなのに出るような柄ではないし、世界大会の前でもありとてもそれ所ではないと断りました。ところがその後何度も、「スケジュールの関しては東さんの体が空く時期まで待つから」、そして「本当に現代のそういった現象を憂いているのなら、是非ともそれを多くの人に訴えるべきでしょう」との言葉や、ストーリーを聞いて決して話題性だけを狙った映画ではないと分ったので「日頃から自分でも感じていた、この問題に何等かの役に立つのなら」といった気持ちが生じて来ました。(正直な所、小生も「これまでは「世界『空道』選手権大会の成功!」との一念で走って来れたが、この後は何をすれば前を向けるんだ」といった心情があったのも事実です)
ストーリーは九州のある島を出て、東京で結婚をした女性の子供が少女殺人に至り少年院に入れられる。しかし家庭が崩壊している為、仕事一筋で正に“月給鳥”だった父親には家族をまとめるなんの力もなく、全員が名前を変えて一家離散して暮らしている(最近の凄惨な事件の後では、大概の家族はそうなる)。ところが母方の祖母が危篤という事で一家は久し振りにフェリーで島に一緒に帰る事になった。
その島はその少年が幼い時に預けられ、その祖母に可愛がられた想いでの島であるが、何日か一緒に行動しても家族は全く心が通い合う事はなかった。一方 同じく都会に出てタクシーの運転手をしていた母親の弟がいる。事故で息子を失って傷心のまま帰った島で出会い、心の傷を癒された娘と所帯を持ち、娘2人と厳しい自然との闘いだが漁師をして、家族が一体となった穏やかな家庭を築いていた。
この弟が、義理の兄と甥の父子共々が、犯した罪とも向かい合おうともしない、余りの感情のない冷めた人間性に我慢できなくなり、到頭、肉体を通しての生の人間としての触れ合いを、荒っぽい方法で強要する。始めは父子のどちらも反発していたが、痛さを通じて徐々に忘れていた“感情”が触発され始め、遂に二人は殴り合いを始める。徐々だが日一日と生身の人間としての感覚が甦ってきて、最後は本当に互いに詫び合い、心から許し合うようになる。しかし人間としての感情が甦るという事は同時に、犯した罪の大きさに目覚め、向かい合う事である。やがてある日二人は遂に、海に向かって歩き始める、と言うものです(多少の変更はあるそうです)。
このストーリーを読んだ時、小生が日頃から言っている事々が入っており、結末も納得のいくものでした。次第に「調子に乗って、などと思われたり、下手で笑われるだろうが、やれるのならやらなくてはならないんじゃないか」と考え決断しました。(この辺が小生の“トンデル”、“変わってる”、“普通じゃない”、“己を知らない”所なんでしょうが、少なくとも)以上の経緯で始まった話で、「世界大会がうまく行ったから」等という浮かれて始めた話では決してありません。御理解頂きたいと思います。
しかし時間的にはほぼ4週間ほど本部を留守にします。その為、多少事務的に不便をお掛けする事になると思いますが、 1月は大きな行事もなく少し融通がきくと思うので、宜しくお願い致します。勿論、パソコンは持っていきますので直接連絡が必要な場合はいつも通り送ってください。
映画「カタルシス」オフィシャルサイト http://www.supersaurus.jp/catharsis.html
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