WARS6試合レビュー

東北本部 佐藤剛

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第1試合 北斗旗ルール(本戦3分延長3分)
平塚洋二郎(那覇支部)○ − ×マシュー・マクレガー(誠空会:豪)
[延長戦2分10秒 腕ひしぎ十字固めにより平塚選手一本勝ち]
第2試合 WARSルール(3分3R)
八島有美(横浜教室)× − ○デュカステル・ステファニー(LC:仏)
[2R2分15秒 腕ひしぎ膝固めステファニー選手一本勝ち]
第3試合 WARSルール(5分、3分の2R制)
稲田卓也(横浜教室)△ − △ボナフ・ロラン(LC:仏)
[1R3分30秒 ボナフ選手出血の為ノーコンテスト]
第4試合 WARSルール(5分、3分の2R制)
八隅孝平(パレストラ東京)△ − △ディディエ・リュッツ(LC:仏)
[ポイント0−0 時間切れ引き分け]
第5試合 北斗旗ルール(本戦3分延長3分)
伊賀泰四郎(関西本部)○ − ×佐藤繁樹(東北本部)
[本戦45秒 佐藤右肩脱臼の為試合続行不能、ドクターストップ]
第6試合 WARSルール(3分3R)
飯村健一(総本部)△ − △ファド・エズベリ(LC:仏)
[ポイント0−0 時間切れ引き分け]
第7試合 WARSルール(3分3R)
藤松泰通(総本部)○ − ×デニス・フランソワ(LC:仏)
[ポイント1−0 1Rパンチによるポイントで藤松選手判定勝]
第8試合 WARSルール(5分、3分の2R制)
山崎進(総本部)○ − ×フォートリー・パトリック(LC:仏)
[ポイント3−0 本戦パンチによるポイントで山崎選手優勢勝]
第9試合 WARSルール(3分3R)
小川英樹(中部本部)○ − ×ドゥロ・ブノワ(LC:仏)
[2R2分40秒 ヒールホールドにより小川選手一本勝ち]

第1試合

北斗旗ルール(本戦3分延長3分)
平塚洋二郎(那覇支部)○ − ×マシュー・マクレガー(誠空会:豪)
[延長戦2分10秒 腕ひしぎ十字固めにより平塚選手一本勝ち]

マクレガー選手は関西格闘空手界の雄、誠空会。投げまでの北斗旗ルールで開催された大会で3位入賞の実力者だ。187.7cm、91kgという長身に加えサウスポー。打撃系格闘技の対戦相手としてイヤな要素を2つも持つ選手である。
対する平塚は177.5cm、87.5kg。20才。最近頭角を現した期待の選手だ。10cmの身長差を如何にかいくぐり接近戦に持ち込むかが課題だろう。リーチの差をゼロにするために必要なものはダッシュ力と勇気だ。そして、それをふたつながら持っていることを平塚は証明して見せる。
第一ラウンド開始早々平塚がパンチ・キックを仕掛ける。リーチ差を全く感じさせない攻撃だ。マクレガーもパンチで応戦するが、平塚はさらに左右のミドル・ローを返し圧力を強める。1・2と膝蹴りが得意というマクレガーだが平塚の組技が予想以上に強いのだろう、有効な攻撃を仕掛けることができない。逆に平塚は組止めておいての頭突き・ヒジ・ヒザという大道塾スタイルで圧倒、大道塾らしい攻撃だが、掴みからの打撃や頭突きを初めて目の当たりにする観客もいるだろう、リングサイドから歓声が上がる。平塚そのまま組んでの打撃から捻り倒すようにして寝技の展開へ・・・。寝技には対応のできていないマクレガーを確実にマウントパンチで制し本戦で効果を奪取するも、仕留めるまでには至らない。この後も平塚が攻勢を続けるが、有効2以上の差はないため自動延長となる。

延長戦へ突入するとマクレガーの動きが目に見えて落ちていく。打撃と組技では使用する筋肉の種類も呼吸法も異なる。それに上手く対応できなければスタミナの消耗は激しさを増す。北斗旗スタイルの試合では、打撃・組技・寝技という急激な呼吸リズムの変化に対応することを要求される。平塚の攻めにパンチやヒザで応酬しようとするマクレガーだが、息が上がってしまいジリジリと後退を余儀なくされてしまう。再び打撃・組技・寝技と変化する中で平塚がマウントを制し効果を奪う。平塚も再三攻めているのだが決定打を奪えないまま試合は終盤戦へ。組み付いてのアッパーをねらうマクレガーに対し平塚大外刈りで強引に浴びせ倒すと、そのまま腕ひしぎ十字固めに移行。スタミナがあるうちならマクレガーも堪えられただろう。大外刈りを凌いでいたかも知れない。だが体力が尽きれば、気力も尽きてしまうものだ。マクレガー十字固めをクラッチで凌ごうとするのだが、スタミナ切れでは如何せん耐えきることはできない。

 

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第2試合

WARSルール(3分3R)
八島有美(横浜教室)× − ○デュカステル・ステファニー(LC:仏)
[2R2分15秒 腕ひしぎ膝固めステファニー選手一本勝ち]

ステファニー選手は昨年のヨーロッパムエタイ、サバット、コンバコンブレー(総合格闘技)チャンピオン。打撃での実力は相当に高いと推測される。対する八島選手はプロボクシング女子ライト級チャンプ。 実はこの戦い、前夜すでに開始されていた。ステファニーの体重が前日計量で4kg近くオーバーしていることが判明。プロの興業であればこの時点でステファニー選手に何らかのペナルティがあるだろう。翌日までにギリギリまで体重を落とさせるなど要望してもいいはずだ。しかし人の良すぎる大道塾。フランスからの長旅の疲れもある、女性が1日で4キロ近い体重を落とすことは無理がありすぎるというフランスチームの主張そのまま受け入れ、何のペナルティも再計量などの条件も無しに試合を認めることとなる。これも武道ということだろうか?

1R開始早々ステファニーが積極的に勝負に出る。今回リュットコンタクトチームの特徴と言ってもいいだろう。早い仕掛け、左右のフック連打からハイキックへの連携→クリンチからの投げという一連の攻撃パターンだ。八島は堅実なブロックからカウンターで得意の1・2を狙うのだが前半蹴りの間合いを読み切れないのか、今ひとつクリーンヒットしない。2分過ぎ、ステファニーが巻き込みから腕ひしぎヒザ固めを狙う。これを凌いだ八島の打撃が徐々にヒットし始めたところで終了。

2Rも1R同様に飛ばすステファニーだが、八島はパンチ蹴りとも殆ど完璧にブロック。手数は少ないがクリーンヒットの数では確実に上回り始め、打撃戦での強さを見せる。徐々にペースを握り始めた八島だが、ステファニーの闘志も衰えない。パンチでは不利と察知するとキック→クリンチというパンチの有効な中間距離をつぶす作戦に変更。投げに活路を見いだそうとする。互いの戦術は1Rの打撃戦から、八島が得意のパンチ勝負、ステファニーが組技狙いの展開に変化する。2R後半、組技で10秒が経過し主審から『待て』の声が掛かる寸前、ステファニーの巻き込みような投げが決まる。すかさず袈裟固めから腕ひしぎに移行する得意のパターン。八島も何とか対応しようとするのだが外国人の筋力は想像以上に強い。

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第3試合

WARSルール(5分、3分の2R制)
稲田卓也(横浜教室)△ − △ボナフ・ロラン(LC:仏)
[1R3分30秒 ボナフ選手出血の為ノーコンテスト]

ロラン選手はバーリトゥードヨーロッパチャンピオンの経歴を持つ強豪。対する稲田選手も北斗旗上位入賞の常連だ。すでにフランスのグラントロフィーに出場、勝利している稲田をフランスチームは警戒している様子だ。セコンドの表情も硬い。試合は開始早々に動いた。短いローを飛ばし牽制するロラン。これに呼応するように稲田が左ミドルを返した瞬間、ロランのフックがガードの空いた稲田の顎を打ち抜いたのだ。たまらず稲田ダウン。北斗旗の有効相当=3pを開始早々ロランが奪取した。試合再開後尚も蹴りにいく稲田の足をキャッチし軸足を刈って寝技へ移行するロラン。だが稲田も落ち着いてガードポジションに。この展開でも地力の強さを感じさせるフランス勢だが、稲田相手に寝技の膠着状態を30秒で変化させることは不可能なようだ。逆に稲田がロランの左肩を引き込み、アームバーを狙う。強引に腕を引き抜こうとするロラン、稲田も必死に極めに掛かるが時間切れ。

ポイントを取り返すべく打撃勝負に出る稲田、真っ向から打ち合いに応じようとするロラン。二人に意地が交錯した瞬間、アクシデントは起きた。バッティングでロランの左目尻が切れてしまったのだ。流血したまま打撃から寝技と試合を続ける両者・・・。返り血で稲田の道着が深紅に染まっていく。ロランのファイティングスピリットもコーチの意見も、むろん稲田も試合で決着を望んだのだが・・・。ともに社会体育という理念を共通する団体である。選手の安全を考える必要もある。ドクターチェックも3回目を数えたとき、下された決断は・・・。

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第4試合

WARSルール(5分、3分の2R制)
八隅孝平(パレストラ東京)△ − △ディディエ・リュッツ(LC:仏)
[ポイント0−0 時間切れ引き分け]

リュッツ選手はサンボヨーロッパチャンピオン。対する八隅選手もプロ修斗激戦区ウェルター級6位の実力者だ。八隅選手、寝技は無論だがムエタイの試合にもチャレンジし打撃も強い。組技の展開を予測しているであろうリュッツに対し八隅は蹴りを連発、主導権を奪おうとする。八隅の蹴りに対しリュッツは軸足刈りから腕絡みを仕掛ける。腕力にものを言わせ極めようとするが八隅はこれを冷静に躱したところで30秒のタイムアップ。 再び両者対峙すると機を窺いながら単発の打撃を交換。リュッツがサウスポーからは放つパンチ、ローはパワフルではあるが単発で決定打にはならない。今度は八隅がタックルから寝技勝負にでるが、しがみつくリュッツを30秒で引きはがすことができない。またまたナチュラルなパワーを実感させられるシーンだ。痛烈な左フックをフェイクに使いタックルからアキレスを狙うリュッツ。八隅がこれを難なくガードポジションで凌ぐ。30秒の制限時間では寝技で仕留めきれないと判断した八隅のセコンドから打撃勝負の指示がでる。この後、プレッシャーをかける八隅を止めようとリュッツが放った前蹴りに、八隅がフックを綺麗にあわせ、あわやダウンか?というシーンもあったが、残念ながらポイントに至らず0ポイント−0ポイントで延長へ。

延長開始と同時に八隅タックルを決めるが、リュッツのバランスがよくポジションをキープしてしまう。更にまさしくこれが強力クラッチだといわんばかりの鉄壁なディフェンス。八隅が、どうしても寝技で攻めきれない。 ならばと打撃で攻めようとする八隅、リュッツ長身を生かした前蹴りやスピンキックで距離を保つ。八隅のパンチが時折綺麗にヒットするが、リュッツも連打を許さない。後半になると八隅がリュッツの蹴りを誘い空振りさせ、素早いインステップからのパンチ連打で追い込むシーンも目立つようになる。だがリュッツもなかなか堅いガードとクリンチで凌ぎポイントまでは許さない。しかも防戦一方になることなく、時折パワフルな蹴りやフックを繰り出し、八隅を威嚇する。本戦と同じ展開、同じ流れで時間だけが経過していく。

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第5試合

北斗旗ルール(本戦3分延長3分)
伊賀泰四郎(関西本部)○ − ×佐藤繁樹(東北本部)
[本戦45秒 佐藤右肩脱臼の為試合続行不能、ドクターストップ]

一撃必殺というイメージではないが、速射砲のような連打で対戦相手を追いつめ、小川直伝の崩し・倒し・締めという必殺パターンで見事今年北斗旗軽量級王者となった伊賀泰司郎。対する佐藤繁樹は強烈な右クロスで対戦相手をKOするイメージが鮮烈だ。試合前から伊賀の崩し・寝技を佐藤がどう凌ぐのか?果たして伊賀が佐藤のパンチを全てか躱しきることができるのか?が勝負の分かれ目、見所だと思われていた。

試合開始早々、伊賀の右手が佐藤の左袖を捕まえると『崩し』を仕掛ける。伊賀の最終的な狙いは締めだと考える佐藤、下にならないよう体勢を維持しようとする。体勢などお構いなしに寝技に移行しようと引き込みを見せる伊賀。左袖を絞り自由を奪うと伊賀は下から左のヒジ・ヒザ・足底蹴りなどでダメージの蓄積を狙う。佐藤振り解こうというアクションは見せるが、空いている右での反撃もガードもない。あるいは今の打撃でダメージがあるのか?佐藤の動きがややおかしい。そのまま寝技30秒の時間が終了。主審が立ち上がるよう指示をしたところで佐藤が何事かをアピールしている・・・。実は倒れ込む際に、ポジションを維持しようと右手をついた瞬間、勝負は決まってしまった。佐藤の右肩が脱臼していたのだ。左は伊賀が掴み固定している。右は怪我で使えない。打撃もガードも出来ないもどかしさ。 寝技の攻防の時間中に関節が嵌って元に戻れば何とか立技で勝負・・・佐藤は一縷の望みにかけたのだが奇跡は起きなかった。主審に試合終了を告げられた伊賀の「何が起きたのか」と訝しがる表情と、悔しげな佐藤の顔。二人ともこれで決着がついたとは考えていないようだが・・・。

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第6試合

WARSルール(3分3R)
飯村健一(総本部)△ − △ファド・エズベリ(LC:仏)
[ポイント0−0 時間切れ引き分け]

エズベリ選手はヨーロッパの中でもオランダに続いてレベルが高いフランスキック界のチャンピオン。対する飯村選手は大道塾きっての打撃スペシャリスト。試合前からハイレベルの打撃戦が予想される期待の好カードだ。

1R開始早々からエズベリのラッシングファイトが炸裂。フックの連打連打連打、時折ローをとばし、ハイを狙う。この攻撃に会場が沸きかえる。飯村はガードを固め、ステップバック、スウェー、スリップなど華麗なディフェンステクニックで捌きながら右のテンカオをボディにめり込ませる。手数で言えば5:1程度だろう。仮にこの試合が北斗旗ルールの3分の本戦のみで決着ということであれば、ヒザの効果が現れる前に終了してしまう。飯村はこの試合を失ったかも知れない。しかし自ら『北斗旗の採点と自分の採点は違いますから』と言って憚らない飯村。3分3Rという試合であれば、そのスタイルと実力を発揮できるだろう。事実、キックの採点であればクリーンヒットの数、中段でもダメージの量でその優劣が決まる。ここまでの展開でもエズベリの手数より飯村のクリーンヒットが評価される可能性は大きい。レバーに突き刺さる飯村のヒザが、エズベリのラッシュを止めるだろうと言う予測は、驚くべきスタミナと打たれ強さによって覆される。1分を過ぎ、2分に達してもエズベリのラッシュが止まらないのだ。会場の殆どが飯村の防戦を危惧しどよめく。だがセコンドの加藤清尚は落ち着いて指示を送っている。なにより戦っている飯村自身の眼が冷静さを失っていない。事実戦っている両者には観客と違う風景が見えていたのかも知れない。1R終盤にはエズベリは何かに気圧されるようにステップバックを続け試合場から転落というアクシデントまで発生する。本部席からもいったい何が?と疑問の声が挙がる・・・。飯村本人も試合後ヒザじゃないですかねぇ?と語ったように意識を失うような頭部への打撃はなかった。だが、転落の仕方は意識が跳んでいて思わず転落したといった印象だ。このシーン、結局ダウンでは見なさずアクシデント扱い。ノーポイントのまま試合再開。ここから再び手数のエズベリとカウンターの飯村という構図に終始し1Rは互いに0Pで終了。
2Rに入ってもエズベリの戦術に変化はない。左右のフック+キックのラッシングだ。しかし飯村を攻め落とすことはできない。 至近距離から放たれるパンチが空を切りブロックにはじかれる。エズベリ、ここでバックスピンキックを多用し、リズムを変えようと躍起になる。しかしこれも目立った効果を上げることができない。対する飯村も首相撲からヒジ・ヒザでの決着を意図するのだが、エズベリの手数が邪魔で、果たせない。試合開始前のアップで見たタックル練習のイメージが飯村を慎重にさせていたのだ。しかし痛烈なヒザが徐々にエズベリのスタミナを消耗させ魔界に引き込んでいく。中盤戦では組みつこうとしたエズベリの額に飯村のねらい澄ましたヒジがヒット、乾いた打撃音が会場に響き渡る場面もあり、1R序盤から継続してきた『出るエズベリ、カウンターを狙いながら下がる飯村』という構図が変化したところで2R終了。

3R。飯村のストレートが、ヒザが確実にエズベリの力を削ぎ落としていく。勝機と見てプレッシャーをかける飯村、効いてないとアピールしながらも間合いを外そうとするエズベリ。どちらの選手が試合の主導権を握っているのか、3Rになり誰の目にも明らかになった。ラウンドを重ねるごとにダメージが蓄積されていくローやボディへの攻撃。地道な作業を確実に積み重ね、飯村がエズベリを追いつめたのだ。しかしエズベリの頑張りも凄い。一発逆転を賭けたパンチを狙う。エズベリの気迫を上回る気力で冷静さを保ち、飯村は前蹴りでエズベリのバランスを崩すと、必殺のテンカオを繰り出していく。ダウン必死かとも思われたこのラウンドの終了間際、エズベリもボディをもらっても、そう覚悟を決め右ローの連打で必死の反撃・・・。

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第7試合

WARSルール(3分3R)
藤松泰通(総本部)○ − ×デニス・フランソワ(LC:仏)
[ポイント1−0 1Rパンチによるポイントで藤松選手判定勝]

フランソワ選手はフランス独自の打撃系競技サバットの世界チャンピオンである。サバットとは蹴りを主体とした競技で、素早く、遠間から、力強い蹴りを放つ。藤松選手は昨年の世界大会重量級、今年体力別の超重量級とタイトルを奪取。定評のある寝技に加え加藤清尚師範代指導のもと打撃にも磨きをかけて、空道世界大会でのテコンドー王者に続きサバット王者撃破を目論む。

1R立ち上がりは両者距離を測定しあう静かな展開。藤松の気迫がフランスチームでもっとも野性味溢れる風貌の男を慎重にさせている。衝撃的なオープニングショットは藤松の右拳から放たれた。つーっ、と距離を詰めるといきなり痛烈な右ストレートがフランソワの頬を捉えた。大きくヒザから崩れ落ちたフランソワ。 更に追いつめる藤松。ダウンか?とも見える崩れ方だが、フランソワ選手も意地を見せ藤松に組みつきながらグランドで立て直そうとする。フランソワ打撃だけの選手ではないようだが寝技に関して藤松の実力は相当に高い。サイドポジションで動きを制すると腕ひしぎ肩固めを仕掛ける。「勝負あった」と思えた瞬間、スッポ抜けるように技が外れ再びスタンドに。藤松がタップしたと誤解して技を解いたようだ。その後はフランソワが前蹴りやローで反撃、藤松もキックで応戦しながら1R終了。

2Rになると打撃勝負に徹したいフランソワは藤松のパンチを警戒しつつ寝技の回数を使い切る作戦。後退しながら自らクリンチ、引き込みを狙う。藤松は着衣での打撃技術を見せつける。 相手が襟をつかんだ瞬間にショートパンチを合わせて見せたのだ。しかしフランソワ倒れながらも藤松の両腕をかんぬきでロックし完全防御、時間切れとなる。その後の寝技でもなかなかフランソワのクラッチを切りきれないが、これも海外選手と日本人のパワーの差なのだろうと皆が納得しようとしていた。しかし事実は異なっていたようだ。観客も対戦相手も気づいていなかったが、1Rで既に藤松の右親指が骨折していたのだ(恐らく観客席の中で表情の読みにくい藤松の顔色から、ベトナムの散打の試合で足の甲を骨折したときと同じだ「何か隠くしてる」と感じていたのは唯一総本部BMCの松原師範代くらいのものだろう)。藤松の気力も凄まじい。 終盤では打撃得意のフランソワもステップバックするのが精一杯というくらい渾身の左右フックを(壊れた右拳をも)振るい、追いつめていく。それは決してフェイントではない、倒すパンチだ。1R同様追いつめるが後一歩捉えられず残念ながら2Rも終了。

3R。藤松右ストレートから、投げ、即座に腕に狙いを定めて攻撃を変化させるコンビネーションを見せるも極められない。フランソワもローからタックルで反撃を試みるが藤松落ち着いてこれを切ると互いにローを飛ばす展開。単発だが鋭い打撃音が会場にこだまする。 打撃技術も長足の進歩を見せる藤松、右ボディストレートをフェイクに使いガードを下げ、右ハイキックのコンビネーションをヒットさせるが、当たりがやや浅くこれも決定打にはならない。観客も藤松の打撃に期待を寄せるが・・・。

 

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第8試合

WARSルール(5分、3分の2R制)
山崎進(総本部)○ − ×フォートリー・パトリック(LC:仏)
[ポイント3−0 本戦パンチによるポイントで山崎選手優勢勝]

試合場に登壇したパトリック選手の風貌は自信に満ち溢れていた。今回のフランスチームのエースと言ってもいいだろう。グラントロフィーでは修斗ライトヘビー級王者・須田昇や3位の竹内出を破る実績を持ち、元柔道フランスナショナルチームメンバー、サンボ、サバットの経験も持つ。対する山崎選手はあのシュルトに背負い投げを決めた実力者。 着衣の総合武道・大道塾スタイルを稲垣・小川・藤松らとともに今最も具現化しうる選手だ。世界大会ではイタリアの柔道ではイタリア学生代表の経歴を持ち極真とイタリア王者いうストッパに苦杯をなめただけにこの試合にかける思いは強い。

ともに柔道出身だけに始めから組技の展開を予想した観客もいるだろう。しかし山崎の打撃が痛烈であること忘れていないだろうか?接近戦で組技と打撃の連携こそが山崎の真骨頂だ。まずは鋭い左ハイキックから素早いテイクダウン、ニーインザベリーの体制から機を窺う。WARSルールでは寝技での打撃が認められない。そのためパトリックの守りを崩すことは難しいようだ。再び立技の攻防へ。パトリックも左右フックからタックルを仕掛けるが、山崎これを組止めるとヒザ、アッパーを繰り出す。この攻撃にパトリックの顔が歪む。中盤に差し掛かる頃から組技で組み手を変化させつつ内股や払い腰を仕掛けるパトリックだが、これを山崎が余裕すら感じさせる動きで凌いでいく。 純然たる柔道の勝負で在れば、パトリックの崩しも強烈なのだろう。だが山崎は組際の打撃で圧力をかけ十分な崩しを使わせないことで、パトリックの投げを殺しているのだ。それでも執拗にパトリックは寝技の狙う、山崎を浴びせ倒すように寝技の攻防へ・・・腕ひしぎに勝負を賭ける。この攻撃も山崎が凌ぎきると、接近戦での打撃を嫌うパトリックはタックルを仕掛けてはカメになるという展開。山崎もこれを何とか攻めようとするのだが、寝技での打撃で崩せないため仕掛けようがない様子。同様の展開が何度か続き、山崎は狙いを変えていた。パトリックが左腕を伸ばし、襟を掴んだ瞬間、右クロスを一閃。パトリックの顎を打ち抜いた。大道塾独特の技術、組際での打撃。パトリックからダウンを奪い、3ポイントを確保する。まだパンチが効いているうちに打撃で追撃し、勝負を決める・・・誰しもがそう考えるだろう。だが山崎にも拘りがある。 何としてもパトリックを投げ捨ててやろうと、ここから背負いや内股を仕掛けていく。パトリックも元柔道フランス代表メンバーの意地でこれを凌ぎ本戦は時間切れ。

延長に入るとポイントを取り返そうと気迫で前に出るパトリック、負けじと闘志を見せる山崎の意地がぶつかり合う好勝負に。組止めてのショートパンチを繰り出すパトリックに山崎が防戦に回る。必死のパトリック、場外のコールにも加激を止めない。これには山崎も怒りを隠せない。掴んでの打撃は大道塾の得意とするところだ。その場面でやや山崎が後退したのは、顔面へのヒジ・ヒザ・頭突きといった攻撃を禁止されていた為だろう。山崎得意の崩し・頭突き・ヒジ・投げというコンビネーションが使えない戸惑いからリズムを作れず、防戦に回ってしまったのだ。掴んでの打撃で有利に立ったと見たパトリックが更に攻勢にでようとする。しかしこの距離での打撃戦には山崎に一日の長がある。『掴み+打撃』は大道塾が恐らく最も先端を行く独自技術の宝庫だ。パンチを振りきらせない巧みなディフェンスから、カウンターで山崎が主導権を奪い返す。山崎のアッパーがパトリックの顎の先端を捉えると完全に攻守は交代。次第にパトリックが組技からカメになるという本戦と同じ展開に。

 

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第9試合

WARSルール(3分3R)
小川英樹(中部本部)○ − ×ドゥロ・ブノワ(LC:仏)
[2R2分40秒 ヒールホールドにより小川選手一本勝ち]

お手伝いの女子部がドゥロ・ブノア選手の入場シーンを見てフランスチームの王子様と呼んだ。その端整な仕草と顔立ちからは想像もつかないが、フランスやイギリスなどで開催される総合格闘技大会において優勝を重ね、最も危険な足関節ヒールホールドを得意技とする危険な男である。昨年グラントロフィー大会で小川が見せた達人芸への対抗策も十二分に練っての来日だろう。当初禁止としていたヒールホールドを前日夜のルール協議で半ば強引に認めさせ、勝負への拘りも並々ならないものが感じられる。対するは“達人”小川英樹選手だ。 昨年稽古中に痛めたヒザをかばいながらも、その達人と評される技、独特の崩しと締めで世界大会でも無人の野をゆくようにして優勝を飾った。ブノアの対抗策とは・・・?これもまた注目のカードだ。

試合開始から小川独特の低い構えを見せる。対するブノアも呼応するように低く低く構えをとる。ドツキ合いの迫力、熱気ではない。観客が一瞬目を離した隙に勝敗が決してしまうのではないか?そんな緊迫した空気が会場に流れる。まず小川特に右足払い。ブノア低い体勢は足払いに対応するためだったのだろう、全くバランスを崩さない。低い構えの意味は、それだけではなかった。小川の足をキャッチすると引き込みながらヒールホールドを仕掛ける。前夜まで拘りを見せていた得意技だ。鋭く確実にヒザ十字靱帯を破壊する危険な技である。 だが小川も簡単に極められる男ではない。この攻撃を凌ぐと逆に逆海老のような体勢をとりアキレス腱固めに切り返す。ブノアの戦術は、立技に一切付き合わず、終始狙いはただ一つ“ヒールホールド”というものだ。流石の小川も多彩な仕掛けでヒールを狙うブノアに手を焼き、2度目のヒールが決まる。この瞬間、痛めていた小川のヒザが悲鳴を上げた。だが、小川の顔色は全く変化しない。何事もなかったような表情から2度・3度と体を反転させ場外に逃れる。ヒザが緩いのだろう。小川に時折小さく床を蹴りヒザを気にするような動きが目立ち始める。絶好のチャンスを逸したブノアも慎重だ。静かだが着実に間合いを詰める小川、ノーモーションで右前蹴りをブノアのボディに突き刺す。たまらず後退するブノアをパンチで追う小川。ポイントか?とも思われたが、攻めきれず1Rはタイムアップ。

2R。まず打撃で精神的な圧力を強めようとする小川、ショートパンチをヒットさせながら寝技に持ち込むと一瞬でニーインザベリーの体勢を作り、襟を狙う。だが絞め技は十分に警戒しているブノア、がっちりと両手で襟をクロスして放さない。完全な柔道の防御法だ。寝技の展開で打撃が認められれば、ここから幾つかのバリエーションも考えられる。だがグランドでの打撃が禁止されている以上、簡単にはディフェンスをうち破ることができない。極めきれないまま再び立技へ。1R終了間際の痛烈な蹴り、そのイメージがブノアに打撃を出させない。だがワンチャンスで試合を極める必殺技を持ち、狙いを定めたうえで守りを固める男を攻めることは難しい。小川、静かに円を描きながら機を窺う。膠着状態で人間の思考力は落ちる。極度の緊張の中で、人は打撃に対しては同じ技で反撃するとういう習性がある。小川が右ローを飛ばすと、思わずブノアもローを返す。だがこれは小川の注文通りだった。ブノアの反撃のローに右パンチを合わせると、ここからほぼ一方的にパンチを見舞う。しかしブノアも徹底したヒールホールド狙いを崩さない。パンチに後退し、膝から崩れ落ちるように見えた瞬間タックルを決め、三度ヒールホールドを狙う。極まったように見えた。事実極まっていたのだと思う。だが小川は意に介した素振りも見せない。冷静にブノアの極めたヒールを見据え、自分の位置を見極める。完璧に極まったはずの技でタップを奪えないブノアに焦りが見える。ブノアが更に強く膝十字をねじり上げようとする。それが小川に勝機をもたらせた。ブノアが上半身を捻転した瞬間、小川が右脇にブノアの踵を捉え固定したのだ。自分が狙っていたはずのヒールホールド、極めようとしたその技がブノアを襲う。

 

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文章日付2002.7

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