2010北斗旗全日本空道体力別選手権大会
2010北斗旗全日本空道体力別選手権大会

東塾長のコメント「中村選手について」

東孝塾長過日の全日本大会に出場した中村和裕選手(柔道参段)は、柔道の縁からビジネスマンクラス師範代(柔道参段・空道四段)の松原隆一郎東京大学大学院総合文化研究科教授が、昨年の世界大会に国際武道大学での柔道の師である柏崎克彦師範(柔道八段)共々招待したものです。試合は柏崎師範にも大変高い評価を頂いたが、中村選手が非常に興味を持って「ぜひ自分も出場したい」となりました。その後、「一度、本部の練習に参加してみたい」と言う申し入れがありました。

その件について平塚和彦、高橋英明、両連盟副理事長とも「柔道出身ではあるが、今は『プロ格闘家」を自称している選手を(練習の先には当然試合参加となる事とを考えた場合)基本的にアマチュアを前提としている“武道”の一ジャンルである“空道”の試合に出して良いものか?」との検討がなされました。

結論としては、現実にロシアの選手は一日5,6時間の練習をこなす“実質的なプロ”である。多くのオリンピックスポーツでもプロの参加を認める方向になってきている。実際に「何戦以下のプロ」とは言っても(特に海外の選手の場合)その厳密な判定は不可能だ等々の理由。

更には昨年より「一般社団法人 全日本空道連盟」となっている以上、「いわゆる“反社会的団体”の所属という事実のない選手への“門戸開放”」という理念にも抵触しないので、個人特別会員(※)としてなら良いのではないか、ということで参加を認めました。(※個人特別会員については[大道塾とは]-[空道について]-[試合出場について]を参照ください。)

総本部では稲垣 拓一師範(五段)の号令のもと、昨年の世界大会出場選手なども、集まり熱い稽古が行われました。その際には白帯を締めて練習したり(大道塾の段位がないので当然と言えば当然ですが、しかし・・・)掃除を一般塾生と一緒にするなど、非常に謙虚な姿勢が見られ好感が持てましたので、その後、恒例の食事会となりました(笑)

その席でも「自分は現在は“プロ格闘家”を名乗っておりますが根本的には“武道家”という気持ちで試合に臨んでおり、いずれは道場を開き後進を育てたいと思ってます」、「その際は空道も指導できるのでしょうか?」等「社会体育」であろうとする空道との共通理念も確認され、参加した塾生共々互いに美味い酒を飲んだものでした(笑)

しかし正直な所、(2010北斗旗全日本体力別大会)20日ほど前に中村選手が師匠の吉田秀彦選手との戦い(吉田秀彦引退興行〜ASTRA〜2010年4月25日 東京・日本武道館)に勝利を収めた時には、「プロとしての名声をまた一段と高めた今、勝って当たり前、万が一、負けたなら『ナンダ!?』もしくは『なーんだ』と言われるリスクを冒してまで、アマチュア武道(空道をそう言われるのは癪だがプロアマという分け方ではそうなる)の試合には出ないだろうな」と思い、松原教授を通して確認したところ、「必ず出させて頂きます」との返事。「“武道家”だと言った言葉にウソはなかったな」と変に(?)感心したものでした。

残念ながら試合は3回戦(加藤久輝戦)で敗退しましたが、しかし、その実力は噂に違わない非常に高いものがありました。「全日本初出場の初戦で著名な選手と戦う!」という緊張もあったのでしょうが、九州地区予選で平塚洋二郎選手、決勝で中西大悟選手を破って優勝し、全日本に初出場した、高校野球でピッチャー、四番というキャリアで体力的は申し分ない、長身193cm体重85kg(体力指数278)の磯濱将裕(筑紫野支部)を開始早々なんなくアキレス腱固めで葬り、続く東北1位のやはり予選の荒武者振りは消え、腰が引けたパンチと蹴りで中村選手の前進を止め切れなかった、高校柔道出身の大型、打川亨選手(身長178cm体重102kg 体力指数280 秋田市同好会)にも終始攻勢で圧勝しました。

準決勝戦の対加藤久輝(安城同好会)戦。加藤は「10春 西日本大会観戦記」でも紹介しましたが、西日本大会で驚異(恐怖?)の快進撃で全日本デビューを果たしている期待の新人です。この試合、中村選手のパンチは結構当たっているものの、掌底(「手のひら」の)攻撃という事で威力という点で加藤のパンチには及ばず、本戦、初っ端には強烈な左ストレートを連打されたり、中盤には左アッパーで一瞬グラつくなどと言う一幕もありました。さすがの投げ技を何度か豪快に決めたりしましたが、場外だったり、同体だったりしてポイントにはなりませんでした。

終始、掌底で攻撃する中村和裕選手(青)
終始、掌底で攻撃する中村和裕選手(青)

また、基本的に護身(※)を前提としている空道では、審査基準はまずパンチの攻防で五分ならば、次に投げ、投げで五分ならば寝技での攻防、という順で甲乙を付けるというルール上、準決勝戦でパンチに勝る加藤選手に苦杯をなめました。

※対複数を考えた場合、組んでしまっては一人しか相手に出来ないし(特に寝技)中には、刃物等を持っている相手をも想定しているから、自由に動き回れる、もしくは時と場合によっては逃げる必要もあり()極力、離れて戦う事を基本に置いている。しかし投げや寝技も知らなければそこが弱点になるから最低限の対応はする必要がある、その折衷点として、空道の試合では掴み合いも1回で10秒まで。寝技は30秒X2回しか認めないのです。※ 護身というのは何も相手を倒す必要はないので、相手の戦闘意欲をなくすか、特に守らなくてはならない人間が同行している時などは、自分が戦いに没頭してる(酔っている?)隙に連れが襲われると言う事等も考えたなら、時に逃げると言う戦術も必要である。そんなこんなを考えてのルーツなのである。

しかしその身体能力に裏付けられた実力は過去の戦績に恥じないものがあり、又、少し有名になると“勘違い”することの多いた昨今の武道・格闘技選手とは一線を画する、他の武道への尊重・研究の念は、再度の挑戦があった時にどの選手が迎え撃てるのかは予断を許しません。試合後には周りの応援者がその辺のルールを理解しないで判定への不満を述べるにも拘らず、本部席へ「有難うございました。大変勉強になりました。また出場させて頂きたいと思います」と挨拶に来るなど、“武道家”としての礼儀と矜持を示してくれました。

今大会「特別賞」を受賞した中村和裕選手(右から1番目)
今大会「特別賞」を受賞した中村和裕選手(右から1番目)

ここからは半分ウケ狙い(笑) 。
彼とて“プロ”としての世評を賭けて戦った以上、彼なりの感慨も当然あるだろうが、「アウェーで戦う以上、 “一本勝ち” か少なくとも「圧勝してしなくては」という漢(おとこ)としてのプライドがそれをさせないのだろう。(誓って言うが、ウチの審判は日教組じゃないが、自虐的ともいえる程に身贔屓はしない(笑&泣き) から、判定は中立的だと思う。判定で、中村選手に2本の旗が揚がった時、私と評議委員長は「エー!なんでー??」と顔を見合わせた程だった。しかし、だからこそ多くの団体が、北斗旗に出てくれるのだと自分を納得させているんだが・・・・。

更に後日にはハガキでも同じような礼状が届き「参った」という感じにさせられた。「柔道の教育力はすごいな。それに比べると強者至上主義になり易い“格闘技系”はそこそこ実績を残した位で“勘違い”して世間から嗤われたり敬遠されたりしてる人間が多いが、俺の弟子であそこまで心配りできる人間がいるだろうか?」と思うと複雑なものがある。

と同時に、「う〜ん、中村和裕、恐るべし。これは一度彼が始めたという居酒屋(※)にも顔を出さなくてはならないな!!」と唸らされたものでした(爆)。

※居酒屋「中村屋」 【食べログ記事
品川区西五反田1-32-3 DAIビル3F TEL 03-5759-6337 営業時間18時〜深夜 日曜定休

2010.6.12記

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