レポート:東孝(塾長)
今まで北海道札幌地区には総本部直轄の「北海道本部」が一つしかなかった。今回、田中指導員が専業として独り立ちしたいという事で、家主であった菅原英文 北海道本部長からの許可を得て、札幌南支部を立ち上げたことで、北海道地区には、北から、紋別、滝川、帯広、札幌南、札幌西、北広島、小樽と、7つの拠点(支部、道場、同好会)体制になった。その為に、それぞれの支部が、いい意味でのライバル意識が強くなり、それぞれに研究を凝らし良い選手を育てて来ており、非常に白熱した試合が多かった。これまで北海道本部長として、立ち上げの時期から空道を応援すると同時に、自らも汗を流し今回札幌西支部長と(兼札幌地区運営委員長)となった菅原英文支部長に感謝したい。紙面の関係で予選を中心にレポしよう。
予選は参加者数の関係で、-240クラスと-250、260+も含んだ240+のふたクラス。-240クラスには優勝経験を持つ田中俊輔が世界大会出場前の慣らしという感じで、新鋭やベテランを迎え打つ。第6試合、北海道の軽量級を永年支えてきた宮澤敏彦戦では、試合から遠ざかっている為と指導に回っての受けの組手になってるために、今大会どっしりと腰を下ろして構え、動きが好調の宮澤を捉えきれない。後半、漸くワン・ツーが決まって勝ったがいつもの田中ではなかった。次の第13試合では、空道歴は半年だが、キックや総合の経験を持つ、帯広支部、神代雄太と対戦、互いにパンチの応酬から組み合うが、神代も右脛を田中の左足の付け根に密着させて距離を殺す。一旦はなれて再度の接近ざま田中の右ストが良い音を響かせてまともに入るが審判は取らない??すると今度は神代寝技に引き込もうとする。自信の表れか田中も良いポジションを取れない。時間で立つ両者。結局明確なポイントは奪えなかったがその後もワン・ツーを何度か当てて田中の優勢勝ち。神代のホープ的デビューだったが、しかしこれまでの田中ならハッキリした勝ちをしたい所だ。幸い田中には(今予選には出てないが?)今まで指導をして育てきた若手が何人かいる。彼ら相手に本大会まで選手用の練習をして望まないと全国的に若手が伸びている今大会、世界大会の切符は今までのように“予約済”とはいかないかも知れない。
次の240+クラスは、4人で一クラスにまとめ総当たりとなったが、249.5が二人(佐々木亮一、佐藤優作)、後は259.5(佐々木嗣治)と308(野村幸汰)!!この試合は今回の北海道予選がいままでとは明らかに違う空気で行われたことの証明だった。即ち、新設なった札幌西・菅原支部長が、自身の柔道修行の中で発掘した、佐藤優作と野村幸汰選手が台風の目となったのだ。両者共に強豪大学柔道部の出身で、前者は昨年のサンボ選手権優勝者(大学卒業生のシニア74s級)、後者は2014年北海道柔道選手権大会優勝者という、共に、空道歴は数か月とは言え、柔道・格闘技歴は10数年の輝くような経歴の持ち主、いわば“柔道エリート”だ。彼等が空道に興味を持って参戦したことで、今まで帯広支部の独走だった北海道が俄然面白くなってきた。
さて注目の第7試合。佐々木亮一vs.佐藤優作。まだ入門早々で打撃の経験の少ない佐藤、当然、掴んでの投げや寝技に持ち込む作戦だろう。案の定、開始早々、前進し掴みに来るが軽い左右のワン・ツーを貰い掴めない。それではとインローや前蹴りを出しながら前進してくる。柔道選手としては中量だからだろうか、突き蹴りのセンスも悪くなく、意外に早く打撃を覚えそうだ。内股を掛けるが佐々木も柔道参段。堪える所を、巴に行くがこれも決まらない。それではと三角、膝十字と寝技の連繋。佐々木堪えて、寝技時間切れ。前進に慎重になった所に、佐々木の左右のフックが決まり佐藤、大きく仰け反り「効果」。次に佐藤、佐々木の右足を右足でけたぐりし態勢を崩してを突かせると、素早く後ろに回り、二度目の寝技に行くが決めきれない。(この時、後で威力を発揮する膝十字を見せていた)結局この「効果」が決定打となって佐々木の優勢勝ち。
第8試合。06と08年秋-250優勝、07年と08年春-250準優勝、11無3位以降ひざの故障で戦線を離れていた佐々木嗣治に対し柔道のバリバリ現役、野村幸汰。開始早々に野村はいきなり覚えたての左前蹴りを出すがさすがに軽くかわされる。それではと、次は初めから掴んだところで得意の内股。しかし佐々木(嗣)も伊達に元レスリング北海道代表じゃない、これだけの体力差だが綺麗には投げられずに寝技にもつれ込む。しかし互いにガードが固く時間切れ。その後、野村は足払い気味の右下段を出し佐々木(嗣)の態勢を崩し寝技に行くが、これも時間切れ。これで寝技はもうない。「こうなったなら掴んで投げで」と前進する所を、漸く佐々木(嗣)の右ストレートが捉え少し横を向いた所に、強烈な右アッパー!!これには堪らず後ろを向いてしまう野村。中には[有効]、「効果」と順次旗の角度を上げた副審もいたが主審は「効果」。しかし、後続の攻撃ができなくなるように後を向いたり、場外に出た場合は、もう一ランク上の「有効」にすべきだった(審判長として修正しようかとも思ったが、殊更に「空道」対「柔道」的な雰囲気にはしたくなかったので、そのままにした)結局はこれが決めてで、佐々木、文句なしの「効果」優勢勝ち。佐々木(嗣)、元々強力なパンチャーというイメージはないし、久々の試合という事だろうが、「対組技系の相手には、もっと突き蹴り主体の攻撃をすべきだ」と思った試合だった。
第15試合。佐々木亮一vs.野村幸汰。例によって左前蹴りや右足払い気味で前進し掴みに来る野村。佐々木(亮)掴ませまいと下がりながらの左右フックだが身長差も24cmあるので中々決まらず、度々場外へ押し出される。こういう場合はアッパーや頭突き、金的蹴り、膝金的等と上下に組み合わせて攻撃を散らすと、逆に大型選手の突進を上手く利用出来るのだが・・・。これを数度繰り返して、中盤、佐々木(亮)、体力差64 (体重差40、身長差24)差という事で、遂に金的へのパンチを打ち、瞬時、突進を止めるが後続の攻撃がない!!(普段、金的蹴りの練習をしてないのだろう)しゃがんだ所で寝技に入る。一旦はガードポジションを取るが回転して場外を狙いカメになった所を、右体側に着かれ送り襟締めを決められ一本負け。
左、佐々木亮一(164.5センチ+85キロ=249.5) 右、野村幸汰(188センチ+120キロ=308)
第16試合。佐々木嗣治は前述したように、11無以降ひざの故障で丸3年間、戦線を離れていた為だろう、緒戦でもパンチの反応がワンテンポ遅いのが気になる。とは言っても打撃初心者の佐藤は初めから組みに行くのはまずいと第7試合で学んだか、慎重に間合いを詰める。一方の佐々木(嗣)は野村戦の反省からか初っ端から右ストを決め相手が大きく右に体を反らせて嫌うが次が出ない。あそこに定石通り左回蹴りが入れば大きなダメージなったろうが。二度目のパンチも同じで次が出ない。この辺は試合勘だろう。三度めの対峙で掴れ高背負い投げを貰い転がる。佐藤、背負いをこらえられた場合のこれまた定石、膝十字に素早く行く。佐々木(嗣)も寝技には自信があったのだろう、慌てず背部から相手のあごを上げて逃げ切る。所が佐藤、次は内股に行くと見せかけていきなりのカニバサミで後方に転倒させ素早く左脚を抱えて膝十字。佐々木(嗣)先ほどの経験から逃げ切れると思ったか頑張るが、今回は両腕でガッシリ抱えられれていて逃げ切れない。たまらずタップ!!
右、佐々木嗣治(259.5)。左、佐藤優作(249.5)。
というような次第で、選手数の関係で無差別級となった240+(プラス)のクラスは、佐々木(亮)と野村が2勝1敗同士で同点だったが、一本勝ち (しかも対佐々木戦で) のある野村が優勝で本大会出場を決めた。また、2位となった佐々木(亮)は本来の-250としては1位で、更に、内容に見るべきものがあったという事で、1勝2敗の佐藤(優)共々出場権を得た。
野村、佐藤の二人は「殆ど全ての技を認める空道」という視点からすれば、空道歴は半年かも知れないが、既に投技、寝技には10数年のキャリアがあり充分に一人前の“ベテラン戦士”だ。かと言って、両佐々木(嗣治、亮一)も投げ技、寝技を全く知らないで空道を始めたのではなく、高校レベルの組技を持っており、空道を始めてからは共に10年近い打撃の練習をしている訳だから、キャリア的には極端な差はない。勿論、大学柔道部まで行く者の場合、週5,6日、一日2,3回の練習が普通だから、練習時間では数十倍以上の差があり、時間数で言うと比較にはならないのだが、空道を始めてから習得した突きや蹴りの成果を見せて欲しかった。
以前にも触れたことがあるが、組技と打撃のどっちが習得しやすいかというテーマは人の性格や適性にもより一概には言えないのだが、組技系の出身者は打撃にな潜在的な“恐れ”を持っているものであり、慣れるまでにはそれなりの時間が掛かるものだ。そのポテンシャルをもっと生かすべきだった。というより執着して欲しかった。
一方の野村と佐藤。今回、縁あって空道の世界に足を踏み入れ、幸いにも全日本に出られることになった。今の所、土台である柔道をベースにした試合になり、その結果はどうなるか分からないが、純粋に「より強くなりたい」と思うなら、「全日本大会」後は、一旦柔道を忘れて(組技で勝とうとしないで)打撃に磨きを掛けた方がもっともっと伸び代がある。組めば強いと言っても組む専門の柔道では自分なりの“天井”を見たからこそ「よリ強い相手に勝つには “打撃の力”が欲しい」と空道に取り組んだのだろうから、地区大会で満足しないで“謙虚”な姿勢で“貪欲”に打撃を吸収し「本物の空道戦士」になって欲しいものだ。
予選以外で目立った選手。U19(17歳)ながら一般青帯戦で優勝し、5月10日の「第1回世界ジュニア空道選手権大会 選考会」 U19(250未満の部)への出場を決めた高橋佑太(札幌南)や、シニア挌闘ルールで優勝した木谷渉(小樽)が本大会へとコマを進めた。(「シニア顔面打撃の部」で優勝した岩崎昌弘(札幌南)等は、来年の大会では「空道ルール」での活躍が期待される。
(編集部より)
北海道予選については上記とは別のレポートが4月下旬発売の月刊フルコンタクトKARATE6月号に掲載されます。
2014.4.12更新4.14誤記修正