パンアメリカン大会コロンビア遠征レポート 日進・長久手支部 神山歩未

押忍

日進・長久手支部の神山歩未です。コロンビア遠征のご報告をさせていただきたいと思います。

私は、この度、女性審判員として、また国際空道連盟のAthletes Directorとして、高橋師範率いる日本審判団に同行させていただきました。遠征行程等についての詳細は、同行された師範や支部長らにお譲りし、私は、2日間の日程で審査会と抱き合わせになっていたパンアメリカ大会に係る所感について述べさせていただきたいと思います。

毎度、遠征の度に私が念頭に置いていることは、我々の「空道」を別の視点から学ぶということです。私は、幸か不幸か一支部長の家庭に生まれ、生活の中心はすべて空道という、空道一色の生活をしてきました。我々が日本人に生まれることを選択し生まれてきたたわけではないように、格闘技や武道が好きで、自ら空道の世界に入ってきた訳ではありません。そのため、他の格闘技や武道などをまったく知らず、空道の素晴らしさは十二分に理解していますが、他競技との比較から空道の良さを知るという視点が私には欠落しています。そんな私にとって、海外の別視点から「空道」を学ぶということが、どれほど興味深く重要なのか、このことからおわかりいただけるのではないでしょうか。

さて、コロンビアは南米に位置しているため、人々は「南米だから時間にルーズだ」ですとか、「南米だからテキトーだ」といったように揶揄される傾向にあります。確かに、ホテルの手配、タクシーの件など表面だけをみたら、時間に正確な日本人にとって、そのように感じるのは仕方のないことなのかもしれません。しかし、よくよく観察すると、そうではない一面が多く見えてきました。時間にルーズなのではなく、それは我々と感覚ややり方が違うだけで、現地の時間に関するルール、人の流れにはとても正確に従っており、人々はテキトーなのではなく、何か一つの目的を持った物事には真摯に取り組んでいるということです。そしてこちらが一生懸命お伝えしたことは、なるべくこちらの意に沿うよう、懸命に取り組んでくださるということです。

今回の大会の主催者であるバルガス支部長は、インドで開催された先のワールドカップの際も、大きな言葉の壁を抱えながらもお一人でお越しになっていたツワモノです。とても丁寧な方で、一生懸命で、彼の真摯な空道への取り組みを見るととても「南米系」という言葉が当てはまらない、そんな方です。そんなバルガス支部長が率いるサンアンドレス島の選手・スタッフならびに保護者の方々は、バルガス支部長に負けず、だれもが一生懸命で、大会がより良いものになるよう一人一人がとても協力的であったように感じました。

我々が到着し朝を迎えた20日、パンアメリカ大会の開会式と審査会が行われました。会場に着いた途端に始まった予想外の開会式に、当初、審査会が行われるとだけ伺っていた私にとって、「これが南米流か」と洗礼をうけたかのように思いました。しかし、それは大きな間違いで、我々が予定を正確に把握していなかっただけだと後から気がつきました。当日は、開会式のために、地元のメディア、ダンスチーム、スタッフなどが時間に合わせて会場に現れ、島の人々は口伝いに大会を知り、またポスターを見て大会を知り、時間通りに会場に駆けつけてきていたのです。大会を知らせるポスターも町中に貼ってあり、協賛くださったお店の入り口にも大会ポスターが貼ってあったくらいです。

思うに、聞いていない(報告がない)のではなく、聞いていない(確認していない)の方だったのかもしれません。もちろんそれは言語の壁が存在するせいだとも言えますが、不断の努力でなんとでもなる問題であるとも思います。言ったのに相手がわからなかったのは、こちらの伝え方が悪かったのであり、報告がないのではなく、こちらが尋ねていなかっただけという可能性があります。こうした問題は、海外だけでなく、国内にいても、指導をしていても日常生活の中で多々存在しているのではないかと思います。指導者として支部の大切な選手を預かる身として、こんな小さなことでしたが、また一つ、自分の行動を振り返る良いきっかけとなりました。

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私が幼い頃より支部長に厳しく言われてきたことは、基本を疎かにすると、その悪い癖が移動稽古に現れ、移動稽古に現れた悪い癖は組手に現れるということです。基本稽古や移動稽古がどれほど無駄に思え退屈で、つまらないのか、長年、空道に取り組んできた私にとって、皆さんと同じように、あるいは皆さん以上によくわかっているつもりです。それでも現役選手時代に基本の大切さを実感し、現役を引退した今では尚一層、大切だと実感し、日々変化する身体と対話し思考を巡らし、真面目に取り組んでいます。

現地で行われた審査会では、支部長から何度も言い聞かされてきたことを受験者に少しだけお伝えさせていただきました。すると予想を反し、審査を受けられた3名から、「基本はつまらなくはない。大切だと思っている」との返答がかえってきました。海外の方が、―少なくとも審査をうけられた3名の方は―空道の基本の「き」をよくわかっているのかもしれません。先の世界大会でもそのように思いましたが、基本をしっかり身につけている選手は上位に食い込んでおり、今回のパンアメリカ大会においてもやはり、基本がしっかり身についている選手は、世界に通用するレベルの試合をみせてくれていました。ひょっとすると、他の格闘技と同列で空道を見なし、他の格闘技と変わらない稽古を続けている日本人より、海外勢の方が、「空道」そのものの競技性を理解し、「空道」を一生懸命取り組んでいるのかもしれません。もちろん、基本だけやっていてはダメなのも承知しています。ある程度の力はやはり必要となってきます。ですが、力があっても基本を欠いては頭打ちになってしまうと私は思います。海外勢が基本を大切に考えているということが、私にとってやはり新鮮で、また一つ新たな視点を得る機会となりました。

審査会の翌日に行われた大会では、午前中に少年部の試合が行われ、コロンビア支部の少年部が多く出場しました。大会前、礼法や試合についての説明をバルガス支部長から聞いている子どもたちは、どの子も静かにそして集中してお話を聞いていました。大会に臨む様子も、日本の子どもたちより、空道そのものを楽しんでいるように感じました。一方、顔を蹴られて泣く様子や勝って喜ぶ様子、負けて悔しがる様子は文化や国を超え、どこの子も同じなのだと再確認しました。なかなか興味深かった点は、表彰式で入賞者を発表しなかった点です。ジュニアの試合後、それぞれのカテゴリーで1位が出揃ったのですが、バルガス支部長に確認をすると、「表彰式では、子どもなので、あえて順位を発表せず、頑張った全員にメダルを授与したい」とのことでした。結果を発表しないことについては、日本の教育界で議論されているように賛否両論あると思います。私自身も、良い面・悪い面共に意見があります。いい面としては、負けてしまった子に、表彰という場によってもたらされる更なる敗北感を与えることなく、自信喪失や試合を嫌がるといった感情を抱く可能性を低くするということです。優勝した者も、一回戦で負けた者も、自分の結果や実力は、自分が一番よく知っています。それをあえて表彰式で再確認させることなく、全ての子どもたちにメダルを渡すことによって、大会に出場したことへの喜びや自信につなげる方法もあるのだと学びました。泣いてしまい試合続行不可能になってしまった子も、メダルをもらった後、とても笑顔になり、一日中メダルを首からかけご機嫌な様子に、そうしたやり方も今後につながる良い教育方法の一つなのかもしれないとも思いました。もちろん、競争心を育み、競争心に後押しされる形の向上心を育てるという点について、議論が必要な点であるとも思います。コロンビアと日本の教育方針の違いについて、また一つ新たに学ぶ機会となりました。

その後に行われた一般の試合では、どの選手もルールをある程度理解しており、国際試合と呼べるレベルの試合展開がなされたと思います。一方、審判について言えば、人員不足に陥っているのが現状です。今回の大会では全試合を5人の審判員のみで捌きました。審判員は我々とブラジルのトレース支部長しかいなかったためです。これは世界大会でも同様で、日本とロシアの審判団が大多数を締め、他国の審判員、特に女子の審判員は圧倒的に不足しています。

もちろん空道の花形は選手です。しかし選手を終えてから、または選手を経験しなかったとしても審判として活躍するという道も空道にはあります。空道が世界的に揺るぎなく認知される競技としてさらに成長していくには、選手の数はもちろんのこと審判員の増員、女子の競技人口の増加、そして女子審判員の増加も課題であると、とても強く感じます。

女子の競技人口の増加に関連して、私が今一番に考えていることは、「女性啓発」です。現代日本社会では、可愛くおとなしい女性や一歩引いて淑やかにする女性が好まれる傾向があります。「カワイイ」は英語の単語にもなり、日本人女性の代名詞になりつつあります。この「カワイイ」を我々空道に携わる女性は再考する時期に来ているのではないでしょうか。もちろん、空道をやっているからといって、男性のように猛々しくなる必要はありません。社会が多様化し、ますます混沌としていく日本社会において、自立した女性、女だからと自分を押し殺すことなく胸を張り自由に自己表現できる女性、心の強さとしなやかさを持ち合わせた女性が求められる時期に来ていると感じます。そして、そんな女性を育むことが空道では可能だと私は信じています。柔道のように、女性と男性の帯が違うということも、空道ではありません。空道では女性も男性と同じ道衣を着て、同じ審判ネクタイを締め、自分より大柄な-270クラスの主審をも勤めることができます。空道では、競技としての技術を習得することを通じ、強い精神力や強い心を育みます。それは、多様に変化し、時に柔軟な対応が求められる昨今の日本社会において、我々女性が自分らしく堂々と生きていくための一助になると感じています。今回の遠征でも感じましたが、海外では女性たちが既にそのように動いています。日本人女性の我々も、女性だからと言って、体が小さいからと言って、また「カワイイ」に沿わないからと一歩引くのではなく、道衣を着て、帯を締めていることを誇りに、美しく、強く、そしてしなやかに、より自分らしくあるため、「空道」を十二分に活用し、お一人一人が、それぞれが信じた道で、それぞれの立場で自由に自己表現し、果敢に挑戦し、大いに活躍してほしいと切に願っています。私は微力ながら、そのためのお手伝いをさせていただきたいと考えています。

私がこれまで空道一色という恵まれた環境の中で育ち、多くの方に支えていただき、深い愛情を頂いてきた分、一歩前へ踏み出そうとする女性たちの、また未来を担う子どもたちの力になれればとても嬉しく思います。そのためにも、今回の遠征で得た経験や学びを生かし、なにより自分自身の成長のため今後とも精進してゆきたいと思います。

末尾になりましたが、このような特別な機会をくださり、遠征中にも格別にお心をいただいた塾長、事務局長にこの場をお借りし、深くお礼をお申し上げたいと思います。

また南米という治安の心配される地への私の同行を快く受け入れてくださった高橋師範、渡辺支部長、そして岩崎指導員、ありがとうございました。

そして海外で行われる国際大会に、お前なんかと言わず、行ってこいと背中を押してくださった神山支部長に、全日本大会予選前の大切な時期にも関わらず海外遠征を理解してくれた日進・長久手支部の女子部に、そして家族に、この場をお借りし、心より感謝を述べさせていただきたいと思います。本当にありがとうございました。

 

押忍

日進・長久手支部 神山歩未

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