東孝
話は去年の世界大会にまで遡るが、あの準備の為、私の大きなストレス解消法である、金曜日の19:00からの稽古での技研が2ヶ月ほど出来なかった。怪物共が帰国した嵐のような二週間が過ぎ去って、やっと稽古に出れた初日。基本のあとの、楽しい技研の時間になった。顔面を想定したマススパ―を2,3回して、たまたま練習に出ていた某外国人と向かい合った。フルコンの黒帯らしいが、まだうちに来て1ヶ月くらいしかしてないのに、顔面でのマススパ―をしている。(皆さんご存知だと思うが)年を取るとその方が体には楽で、ましてや顔面をしていない相手では楽しく遊べるのに、原則にうるさい私としては、しかも2ヵ月振りだというのに、基本ルールでの蹴り合いをしてしまった。
二年前マススパーのあと暫く腰の具合が悪かったのも、ガタイの良い相撲上がりのUとの足の蹴り合いからだった。全く学習能力のない人間である。カイロでは練習さえ3カ月も休めばかなり回復するのにといわれるが、汗が体に溜まる事に極端に堪え性のない私にはそれが出来ない。はっきりした“怪我”とか“病気”というようになり、「どう頑張っても出来ない」となるまではエンジンが止まらない。それでも選手時代の腰が恐いので最近は“年の功(?)”で少しは基本ルールは抑えるようになって来てはいるのだが、見込みがありそうなのがいたり、また、フルコンの黒帯等といわれると余計、まだまだこの程度にはという、「昔取った杵柄(きねづか)精神=年寄り特有の症状」が頭をもたげ、脚力だって昔の半分もないんだから、よしゃー良いのについ力が入ってしまう。
案の定それ以来なんか腰が重苦しく、練習のノルマは果たしていても、更に年末の、腰に最も悪い、しかし最も好きな“畳に座っての飲み会”が続いたから最悪だ。恒例の新年早々の弟子との飲み会もブーブ言われながらも今回は中止して、例の“種子島収容所”入所に備えた。は、良いんだが、これが又、シャワーしかない施設で、朝錬後に入浴し体を温めたり、週に一、二度定期的にしているカイロなどのケアをする事も、中々出来なかった。撮影は結構、中腰の姿勢が多く、膝にかなり無理を掛けているなと自覚しながらも“俄(にわ)か役者”としては、そんな生意気な事は言えない。押忍である。
帰って二週間ほど普通のノルマに戻って、いつものカイロで調整してもらい溜まった凝りもほぐれたかなと思った2月中旬、やっぱり金曜日の練習日の事。久し振りに‘90年代前半の往年の中量級の名選手で、華麗な組み手が身上だったが今は見る影もなく太ったTがノソッと基本練習中に入ってきた。それくらいでは、今は温厚な私は動じないが、技研になったら“へんてこりん”な構えをし始める。それも各人の工夫だから別にどうでも良いんだが、結構ノリノリで迫ってくる。目障りだけど、右のローはもう腰が怖くて使わないようにしているので、軽くミドルならと思って、そんなに体重を乗せたわけでもなくチョット蹴ったら膨らんでいる腹に、良い感じで入った。
その三日後、バーベルスクワットをしていた時に、右腰に軽い違和感を感じた。これがいつものぎっくり腰の前兆と判っているからチョット様子を見たがそれ以上ではなく、その日はそれで済んだ。ところが、次の日から走るたびに膝が徐々に痛くなってきた。いつものカイロでも中々好転しないので、別な角度から治療をした方が良いかと、以前やって良かった所へも足を運んで、「一、二ヶ月休んだ方が良い」、との私にとっては悪魔の宣告にも等しいアドバイスにも、カイロでも言われていたし、自分でも事態の軽くはない事を感じていたから、渋々従い“汗の溜まる日々”を一ヶ月半も我慢したのに、どうも座ると膝が重く、苦しい。立つとやはりヒザに力が入らない。「“した方は”悪い事や痛い思いを忘れても、“された方”は忘れない」という人間界の大原則通り、今まで私に脚を蹴られた無数の人間の内の誰かが、根に持ってここぞとばかりに“牛の刻参り”で藁人形のヒザに釘でも打ってるのか?
モスクワから帰ってきてレントゲンを取ったなら、「骨は何ともないので触診からも、どうも半月板損傷らしい」とのドクターの指示で、先日MRIをとって今は19日の診断日を待っている所。選手時代の最後の頃のヒザ靭帯損傷以来、極力右ローを使わない様にして、腰とヒザの機嫌を取りつつ、今日まで保たせた五尺七寸の鋼鉄(更迭?)のこの体も、遂にチューンナップが必要らしい。ま、半月板なんてのは、今まで頑張ってくれた半月板には悪いが、なくてもそれほど困るというほど致命的なもんじゃないから、4,5日俎(まな)板の鯉(恋?)になってれば済む事だが、リハビリには2、3ヶ月掛かるらしいので、これから暑くなる時に汗の放出をどうするか?、いかに美味いビールを飲むか?が、この所の私を悩ませている最も重要な問題だ。
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