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話は変わりまして、5月13日の体力別(2012北斗旗全日本空道体力別選手権大会)の開会式において公式にJWGA加盟を発表されたわけですが、加盟後初となる記念すべき今回の大会に東理事長はどのような印象を持たれましたか? |
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今大会は試合全体を通して選手の「アグレッシブさ」「積極性」が目立ちました。第2のオリンピックと呼ばれるワールドゲームズの「20113年コロンビア大会」参加が、4月19日のIWGA代表団のデモマッチ視察などにより現実のものとなり「空道」が世界につながる道に立ったことで全体に士気があがり、選手の中にこれまでと違う思いや“野心”が芽生えたという印象です。 |
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「この試合に絶対勝つ!」という気持ちが前面に出た好試合が多かったということですね。 |
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体力別大会各クラスの講評をお願いします。まずは女子クラスから。 |
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女子クラス
昨年から参戦した塩田さやか。豊富なキャリアと実績を持ちながらも、ルールの違いを言い訳にせず謙虚に不足を認め、回ごとに空道ルールに適応してきている“潔さ”は称賛したいと思います。選手が固定気味な女子クラス、今回、優勝の吉倉千秋、昨年優勝の神山喜未は彼女との戦いを通じ、2年後の世界大会の外国選手との対戦を考えた場合、吉倉は技の切れを、神山は体力面での向上を心掛けて貰いたいものです。 |
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次に一般各クラスの講評をお願いします。 |
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-230クラス 優勝の宮地孟は、「社会人生活が始まる前の最後の大会」という、“期するもの”を持って臨んだのでしょう、いつものようにアップライトで積極的に前に出ながらも、今回打撃にいまいちキレの見えない平安が寝技に引き込もうとタックルに来るのに、素早く腰を下ろして対応したり、組み合っても支え釣り込みで転倒させたり、左膝蹴りに対しての右軸足払い、更にはもみ合いからの膝蹴り等々打撃と組技をうまく組み合わせて、何と技あり併せても一本という見事な勝利を奪いました。このクラスは-240に次いで選手層が厚く、海外勢に対抗できるクラスです。ベスト4には予想通り宮地、平安孝行、田中俊輔、谷井翔太が残りましたが、若手の谷井にはもっと奮起して貰いたい所です。得意の投げに頼り過ぎな面があるので、パンチや蹴りのバリエーションと、打撃と投げとのコンビネーションが欲しい所です。田中俊輔は北海道本部指導員となって初の大会でしたが、指導員になると初めのころは後進を伸ばす事を考えるので、組手がどうしても「受け」てやるようになってしまいがちで、短期決戦である試合では気持ちを入れ替えて望まないと、後手後手となってしまうので注意が必要です。次の大会に期待します。 |
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-240クラス
優勝の内田淳一は1日5、6時間、近年の総本部内弟子の中でも最も熱心に練習した一人です。関東予選では3年連続優勝しながら中々、全日本では勝てなかったので、これまた「寮生生活3年間の集大成」として臨んだ今大会は、「“絶対に”獲りたい」と思って臨んだのでしょう。対戦相手が今までの内田の得意な投げ+決めを警戒して腰を下ろして頑張る相手に、頭突きや大内刈りと言った対応策を、頭で考えるだけではなく、体で使いこなせるように努力した跡が見られた。そう言った日頃の努力を見ている総本部はもとより各支部の塾生をも巻き込んでの『一度は勝たせたい!!』コールが大きな力となったのでしょう、決勝では今まで対戦することすら叶わなかった、2011無差別優勝の先輩寮生である堀越(亮祐)をも破っての堂々の初優勝!!余談ですが、この優勝が大きな自信になったのでしょう、道場では今まで以上に落ち付いた指導をするようになりました。彼の変貌ぶりに「武道のちから」をあらためて感じたものです。勿論、鍼灸の学校が忙しくて満足な練習ができなかった堀越も来年の「ワールドゲームズ2013Cali」や2014年の「第四回空道世界大会」に向けて本気になって来るでしょうし、この次こそが本当の勝負という気で努力を続ければ両者にとってだけでなくこの階級のレベル向上につながるでしょう。 |
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-230、-240クラスは次に誰がトップに立ってもおかしくない状況というわけですね。 |
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-250クラス
階級を通じて日本人選手の心技体、全てに物足りなさを感じる中で、少ない練習時間ではあっても、何とか技の工夫によって克服しようという笹沢(一有)は、前蹴りのバリエーションによってその研究の成果を見せてくれました。(と言うと、安易に、「体力より技」という今流行りの風潮を助長するようで怖いのですが)試合そのものは準優勝と言う割り切れない結果となりました。これについては後でお話ししますが、この試合は永く言い伝えられるものになるでしょう。しかし一方、普段は持ち前の地力や技の巧みさがクローズアップされるコノネンコですが、絶対に負けないぞ!という気持ちがさせるのか、相手だけじゃなく審判の目とも戦っていた今回の試合ほど勝負師としての性根を見た試合もありませんでした。そういう所も、他の選手には是非学んで欲しい。 |
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「審判の目とも戦っていた」ですか。それはつまり、確実に有効ポイントを取り、試合を優位に運ぶ為の技の見せ方ということですね。 |
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-260クラス
優勝の阿部和幸は地味ながらこれまでもオールラウンドで安定した組手で三連覇を果たして来ましたが、毎年相手が入れ替わるという目まぐるしさに、いささか“絶対値”に疑問の声がないではありませんでした。しかし今大会は、実績のある平塚洋二郎(2006年超重量級優勝、同年無差別第3位、2008年春重量級優勝、2009第二回空道世界大会超重量級第3位)を下した事でその実力を証明したと言っていいでしょう。但し世界大会を考えると外国人との対戦経験がぜひとも欲しいのですが、仕事の関係で海外遠征が難しいのは残念な所です。一方の平塚は、2009世界大会以降仕事の関係で試合には出場せずにいましたが、まだまだ年齢的に若いのですから是非来年の「ワールドゲームズ2013Cali」や「2014第四回空道世界大会」出場を掛けて阿部と切磋拓真して外国勢を切り崩し先兵となって貰いたいと思います。 |
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260+クラス この階級は加藤久輝とキーナンマイクの二人の対戦が続いていますが、プロハンドボールの選手としてのプライドからか「優勝するのが当たり前」と思っている加藤に対し、元々が陽気で物事にこだわらない性格のキーナン。加藤が出なかった大会で一度優勝したことでやっと自分の立ち位置に目覚めたか、試合にも前より積極性が見られるようになり、やっと“ライバル”という言葉が出るようになりました。体力的には決して見劣りはしないのだから欲を持って貰いたい所です。 |
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ありがとうございます。次に、これからの日本空道を担う選手たちへむけ、心構えなどメッセージをお願いします。 |
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試合というものは誰でも当然勝ちたいと思って臨むものだが、それがどれだけ“絶対に”、“死んでも”、“後がない”と言う気になれるかによって、最後のひと踏ん張りが違うものです。とは分かっていても普通の人間はそれを “意図的に”作れるものではなく、状況的にそうなったとか、環境がそうさせたという事の方が多いでしょう。 今大会の宮路、内田、阿部という選手は“今度しか” とか“今度こそ”という追いつめられたものがあったいい例でしょう。 |
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現在の平和な日本、日常において、“意図的に”そういう状態、心持ちになるには、どうすれば良いと思われますか? |
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「誰よりも強くなりたい」と言って入門する人間や、「優勝したい」と言って内弟子になる人間に「それならまず練習第一にして、他の何かは諦めなくてはならない。もしくは一定期間は封印しなければならない」と良く言うのですが、今の世の中はテレビや雑誌、インターネットを通じて一見楽しい事や刺激的な事に満ち溢れているので実行することは大変難しい気がします。 |
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武道を追及するための「ストイックさ」を勧めたところでそれが難しい、誘惑の多い現実があると。 |
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実際は、他人がしているからと言って付和雷同する事に面白いものはそうないのですが。だからみんな「生きがいが欲しい」とか「自分探し」等と右往左往して伸び盛りの20代を浪費して、30前後になったある時「色々やったが何時も残らなかったなぁ〜」とため息をつく人間が増えているような気がします。
しかもこれは始末の悪い事に、若ければ若いほど、何かに夢中になれる人間であればあるだけ、有り体に言えば、“欲望”が人よりも大きいとか強いという事だから、他人が面白がっているあれもこれもを、自分も試してみたい、楽しみたい、と思うのは自然な傾向なのでしょう。 |
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欲望、好奇心が強いことが災いして、ひとつの方向へ向かうことを妨げてしまうと。 |
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しかし人の能力の差なんて、一握りの天才以外、そう違うものではありません。要はどれだけその世界に没頭したか、もっと分かり易く言えば、どれだけ人より量をこなしたかで結果が違ってきます。
だからまず、自分がやりたいという事にぶつかったなら(特に体力を必要とするスポーツなら若い時の)3,4年は一つの事に夢中になってやってみることを勧めます。 |
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「3,4年は一つの事に夢中になってみる」ことが大事ということですね。 |
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今、したいなあという事でも、年を取ってもできる事は後の楽しみに残しておけばいいと思います。(人生は飽きるほど長いのですから。)
そして、一つの事に夢中になる事によって、先に言った勝敗を分ける第2の要素、「これだけやったのだから絶対に負けてられない」「みんなが楽しんでいたあの時に俺はそれを我慢してこれに懸けて来たんだ」という不退転の気持ちになれるのです。 |