close

2013大道塾全国支部長昇段審査会 > 塾長インタビュー

塾長インタビュー

東塾長、空道最高位九段に昇段

―まずは空道連盟最高位となる九段の昇段おめでとうございます。 2004年2月以来の受験となりましたが、年々執務の量や遠征が増えるなか大変お疲れ様です。さっそくですが今回塾長を昇段審査へと駆り立てたきっかけなどお聞かせください。

東塾長いやー何もそんなに大変なことをしたわけじゃない(体力的には大変だが、特に膝が痛テー 泣)どんなに忙しくてもお華の先生が花を生ける、書道の先生が書を書くのは当たり前の事だろう?(更には、終わっての一杯の味を思えば・・・笑)

勿論、主に体を使う分野と技術が主となる分野は全く同じには考えられないし、スポーツ(競技)としての空道の“選手生活“にも年齢的限界は当然ある。また、同じ体で表現するにしても武器を持てるものや約束事で成り立っている“武道”の方が競技生命も実践できる期間は当然長い。また、いつまでも人に恨まれ、争いをするような生き方をするな、人格を磨けというのも道理だろう。 しかし、空道の基本的理念(存在理由)は“護身”だ。どんなに年をとっても人の世に危ないことは一杯あるし、目上を敬うという常識がなくなった現代では特に、だ!そう考えれば、体力差を言い訳にできないと同じように、年を言い訳にはできないだろう。それに俺がやればみんなもやらざるを得ないだろう(爆)。

―実際のところ「手加減なしの組手」を行った手ごたえはどうだったのでしょうか。

東塾長折に触れて言っていることだが、練習でやる(1)パターン練習(約束組手)と(2)マススパー(目慣らし)は当然スピードからして違う。そのマススパーも、マスク付と(3)なし(素面)では距離(前者は近く、後者は遠い)や緊張感(前者が高く、後者は低い)が違う。更にはそのマススパー(2)(3)と、(4)審査の組手は本気度が違うし、(5)現実の戦いは“ やる”か“やられる”か!?である。

そういう意味で(4)の組手は久し振りだからそれなりのアドレナリンは出た(笑)。相手の児玉師範も現役時代はシャープな技で鳴らした“業師”だから(身体指数は同じになっていたが 笑※1)、油断をすれば良いのを貰うから気は緩められない(実際、何発か貰った 笑)。
と思ってるうちに、目慣らしをしてる時に右前蹴りを引っ掛けられ、外そうと内側に捻ったなら、内側靭帯を伸ばしたみたいで(※2)ピキ!と来た。「ヤバ!組手はできないか」との思いも一瞬よぎった。しかしみんなが期待(どっちをだ!笑)しているのにそうもいかない。 何とかやったが、利き足の踏ん張りが利かなくて蹴りもパンチも強くは当てられず(冒頭のパンチの写真で右足を引きずっている)、なんか不完全燃焼だった、というのが正直な所だ。ま、俺の人生はいつもこんな感じで肝心な時に必ず何かある(泣)。しかし、だからこそ飽きもしないで汗を流す気になれるのだろう。これからも「雀百まで踊り忘れず。以って瞑すべし。」という境地(?)で行くしかない(笑)。

※1 今回の組み合わせは高橋師範に頼んだが、その前提として、まず初めに年令別に60歳以上、50歳以上、40歳以上に分け、その中でシニアの身体指数(身長+体重-年齢)の合うもの同士を組み合わせた。児玉師範が191、俺が193だった。

※2 現役時代、あのルールで最も効果的な、また実戦にも最も応用できるとローキックに賭けていたため、念願の「第2回(極真)世界大会」直前に右足外側靭帯を痛め、それが元で10年前に右足外側半月板の除去、1年前に両足の半月板除去と、医者からは「あとは人工関節しかない」と言われている。しかし「人工多能性幹細胞(IPS細胞)の開発で山中伸弥・京都大学教授が、ノーベル医学・生理学を受賞」した!もう少し頑張って、若けー連中を再び思いっきり蹴れる日に備えたいものだ(爆)。

受験者急増の理由

―ところで先ほど「俺がやればみんなもやらざるを得ないだろう」とおっしゃいましたが、受験した支部長数名から「(昇段受験は)まだ先でいいと思っていたのに東先生から厳しくはっぱをかけられた(苦笑)」と伺いました。その背景についてお聞かせください。

東塾長大道塾(のち空道)は「現実の戦いに想像ではなく“実際” 対応できる武道」という、どこにも範を求めることのできない未知なる分野に挑戦してきた。従って私自身も(喧嘩戦法は別にして 笑)全ての面で絶対的な確信を持って指導してきたわけではない。そこで今のような趣味としても練習をしているのではなく、将来的に優勝やチャンピオンを目指していた弟子の中には、それぞれの分野で先行していた打撃や、投げ、寝技の習得の為にボクシングやキック、柔道、柔術に傾倒した時期があった(その結果、実際にそれぞれの段階の「格闘空手」や「空道」で戦績を残した)。

私としては当初、「北斗旗の試行錯誤の中から空道のオリジナルの技が生まれ、それが積み重なって空道の体系ができるはずだ。」と思っていたが、すぐに結果を出したい当時の選手に取って、そんな余裕はなかったのだろう、オリジナルな技(※3)や体系、段位等より、既存の技術を吸収することが手っ取り早く結果を出す道だった。私も“選手として”全部を体系化していた訳じゃないから、いくら「空道には空道の道がある」と言っても選手の耳には届かない。その内私も繰り返すのが面倒になり(笑)、又、学生時代に流行った「弁証法的武道」の影響も残っていたのだろう、「確かに、より良い・新しいものを生み出すには、叩き台があった方が効率が良いな」とズルク(笑)考えた事もあったので、余り煩く言わなくなった。

※3 巴投げからマウント、膝蹴りへの足払い、頭突きや、それからの投げ+極め等。

―空道の発展のためにまずはそのエッセンスとなるかもしれない既存の技術の吸収・向上を優先にした時期があったということですか。

東塾長それと、何でもその分野の技術追求は当然だが、それのみではなく、社会に受け入れられる方向性(教育、理念、趣旨など)を持ってなくては、一時的に世を沸かせることはできても、長くは続かないのだが、社会経験の足りない若い選手達には、眼前の試合の事しか頭になく技術中心にしか物事を見れない。「あんなのは長く続かないんだ」などと言っても聞く耳を持たない。段位を軽視する選手に対し、私も若かったから(笑)、選手の技術万能主義的言動への不快感、不寛容さを抑えきれないで、「受けたくない人間に無理して受けさせることもないだろう。空道の社会的価値はこれから益々上がるはずだから、いずれその結果は自分に返ってくるのだ」と敢えて強要はしなかった。そういう意味で大道塾、空道が社会に認知されつつあるこの頃になって、やっと遅まきながら目覚めてきたという事はあるだろう。

―大道塾、空道が社会的地位を得たことで転換期を迎えたといっていいのでしょうか。

一方、海外においては逆に、大道塾設立時から「打撃を主とし組技も認めた新しい武道」への共感がストレートに、“大道塾(空道)への憧れ”に結びつき、また異文化であるが故に一定の実力を持ては職業として成り立つと事もあり、「規定年数を過ぎたなら即受験」というように、貪欲に段位を求めて審査を受けた。 それが帯下だった海外選手が10数年過ぎた今は逆に日本の先輩より上位有段者として益々増えつつあるという現在のいびつな姿を招いた。「価値を認めたものが保持すれば良い」という意味ではそれでも良いのだが、しかし「国際試合」などが増えてくれば当然審判は有資格者(高段位者)で審判をする。これでは経験不足の有段者が審判を務めるところから生じる、柔道の“誤審”問題と同じことが起きないとも限らない。2010年のモスクワでの「第一回空道ワールドカップ(KWC)」でもその兆候は出始めてきた。

このことは、将来的には空道自体の権威に繋がる、組織全体としては由々しき問題である。そんな訳で2010年のモスクワでの「ワールドカップ」を機に、これまでの経緯からは個人的にはシックリしない部分はあるが、大局的に考えて、折に触れ昇段規定年数をクリアした該当者には審査受験を勧めているのである。

―今年・来年と大きな国際大会参加・開催を前により一層の危機感をもって国内組織の意識改革にあたられたということですね。

今後は支部長昇段審査会も国際化!?

―今回はロシアからも3名が参加しました。この経緯をお聞かせください。

東塾長上記の理由に繋がるが、「社会体育」を目標としてきた日本以上に、それを実現しているとでも言うべきロシア(日本よ!なぜ青少年を救える、国に活気を取り戻せる武道の重要性に目覚めてくれないんだ。!!)のアナシュキン支部長が、規定年数を経たからと昨年「六段位の受験」を求めてきた。彼らにとって段位は職業での「より高度なライセンス」だからだ。しかし、私自身は現在八段位であり「自分の段位の3ランク下までしか段位の審査、認定はできない」という規定からそれは無理である。 また、よく「日本社会は上下関係が強く封建的、保守的で、海外は仲間感覚の民主主義で進取の精神に富んでいる」等と言われる。確かに、常に甲乙を付ける訳ではない一般社会は概ねその通りの見方で良いと思うが、日常的に技術を切磋琢磨する「武道の世界」ではチョッと違って来ている。それは武道の世界だけじゃなく日本社会の規範として当然のように「年上を敬せ」とか「礼儀を忘れるな」等と言われ来たが、占領軍が行った戦後の民主主義教育の「武などという“重い”ものじゃなくて“ 明るい”スポーツで良いじゃないか」という風潮の中で武道の世界でもそういう建前的価値観はかなり壊されてきた。 今では逆に「武道とは」とか「礼儀とは」と言う事を文物(本や又聞き)で吸収する事が殆どである海外の方が、礼儀や武道的なものへの憧憬が強い分、杓子定規に厳格である。従って日本での審査会は(日本人としての島国的一本気加わり)結構上下入り乱れて(笑)丁々発止とするが、海外の方では(トーナメントなどの戦績や収入に繋がるものは別として)、審査会などで上位者に向かって行く者はめったにいない、という現象がまま見られる。そうなると日本人同士が必死になって保留者も出る中で、海外勢の方が容易に昇段できる」傾向が見られ始めた。そういう意味でも、規定通りに「六段位以上は日本での受験が必須」を適用したものである。

―今後も海外支部長の参加が継続するということですね。これまで以上に緊張感の漂う審査会となりそうです。

「空道復権」の原動力として

―この審査会全体を通じ気づかれた点、注目すべきところはありましたか。

東塾長私が昇段審査に見出している意味(※4)や目的(※5)を皆よく承知していて、殆どの支部長師範たちが、選手としての時代を終えても、良く稽古を持続しており、一部の武道である様に現役を過ぎると反動で体はブクブク、腹はぷくぷくという様子がないのは、本当に嬉しい。高齢者のトーナメントをしたなら、冗談半分本気半分でウチが一番じゃないかな(爆)。

※4 「選手時代に良い戦績を取る事」が第一義のスポーツと違い、武道は護身という意味では一生ものである。

※5 これからの少子高齢化社会では「いつまでも若さ=元気を持続し自立的、自律的に生きる」という事は、避けて通れない社会的要請であると思う。

―話は変わって、例年支部長クラスの昇段審査会は総本部3階道場にて関係者のみで行われていましたが今回は受験者数が多いため公共施設武道場での開催となりました。 塾生から「指導者層の本気の組手を見たい」という声もあるかと思いますが、今後この審査会を公開していく予定はあるのでしょうか。

東塾長今までは余り強く「昇段審査」を勧めなかったので、精々が数人の受験者だったから、総本部でも出来たが、上述したような事情からも今後の受験者は増えると思うので、今後は広い道場が必要になるだろう。支部長・師範たちも、「規定年数になったなら受験するもの」という風潮が生まれれば、今まで以上に道着に身を包む機会が増えるだろう。その事は間違いなく弟子に伝わるはずだから「空道復権」を掲げているウチにとっても大きな原動力となると思う。

―これからの支部長昇段審査会が「生涯武道」の手本として塾生たちの道しるべとなることを期待しています。本日はありがとうございました。

【備考】
・空道連盟会員の昇級、昇段は実技審査により行われます。審査会の実施と認定は「空道」の総本山である「大道塾」が主管します。
・大道塾国内外有段者リストは「大道塾三十周年記念誌」(2011年5月発行)に掲載されています。

このページの先頭に戻る

更新日 2013.1.19 1.26一部修正

本サイトに掲載の記事・写真等の無断転載を禁止します。
Copyright(C) KUDO ALL JAPAN FEDERETION DAIDOJUKU. all rights reserved.