イタリア遠征記 KIF理事長 髙橋英明

【ヨーロッパへの行程】
10月29日に開催された空道イタリアンオープン選手権大会のため、ローマに行ってきました。開催国の希望によりイタリアンオープンという呼称にしましたが、実質的にはヨーロッパ選手権大会です。
9月にブラジルに行ったときは、カタールのドーハおよびブラジルのサンパウロを経由し、30数時間かけて行きました(黒矢印線)が、今回はトルコのイスタンブールを経由し(赤矢印線)、乗り継ぎの時間を含めて18時間半でしたので、ほぼ半分です。18時間を超える時間というのは、それだけを聞くと極めて長時間ですが、30数時間という行程を経験した後だと、すごく楽に感じました。

28日の午前にローマに到着し、17:00から2時間の審判講習を実施、翌29日にイタリアンオープン選手権大会、30日は午前中に技術セミナー、午後に昇段審査会を実施し、翌日の夕方に帰国の途に就きました。

【審判講習】
審判講習では、狐﨑全日本空道連盟副理事長・審判資格審査委員会委員長に審判員動作についての講習を担当してもらい、私の方では海外での審判講習用のパワーポイント資料を使い、マルタやブラジルと同じく道場に大型モニターがあったのでこれに映しながら、講習を実施しました。
約30名の参加者は、事前に送っておいた資料に目を通し、また当日はファイルをインストールしたパソコンやスマホも見ながらだったので、内容的にはかなりのボリュームがあるものでしたが、スムーズに進行できました。
参加者の中から12名に翌日の大会で審判を務めてもらい、私は大会審判長兼監査役として全試合で審判のパフォーマンスを見て、B級3名、C級1名、D級5名を認定しました。マルタで開催したジュニア大会での認定者を加えると、B級6名、C級5名、D級8名を、今年新たに認定したということになります。これらのうち3名(C級2名にD級1名)が、女性審判員です。
コロナ禍によってほぼ3年ぶりに実施した一般部の大会であり、特に主審としての技量はまだまだですし、服装もまだ統一されていない状況でしたが、今後、何度も経験を積んでいくことが最も大事だと考えています。
主審にとって一番難しいのは日本語での発声のようで、例えば最後の判定の際も、「判定」という言葉が出ずに、笛を吹くだけというケースが多々ありました。その後の例えば「青、効果優勢勝ち」といった発生もそうですが、適切に発声できないと、自信を持って動作することができないと思うので、今後の一番の課題かと思いました。
しかし、これまではロシアとウクライナを除くとヨーロッパの公式審判員はA級が2名だけ(それも、実質的には機能していない審判員)という状態であったことを考えると、大きな前進であったと思います。

【空道イタリアンオープン選手権大会】
翌29日の空道イタリアンオープン選手権大会は、イタリア、フランス、スペイン、英国、リトアニアからの選手参加があり、全31試合の規模の大会でした。ロシアとウクライナからの参加選手がゼロというのは寂しい限りですが、決勝戦は、異なった国間の闘いとなったケースがほとんどだったので、声援は大いに盛り上がりました。
ただし、マルタでのジュニア大会の際は試合の組み合わせ作成や試合進行にITを活用して、少人数の若いスタッフでもスムーズに大会の運営ができていましたが、今回はブラジルと同じく、大会の運営方法には改善すべき課題がいろいろとありました。事前準備や当日の運営については、レベルアップが不可欠です。
今後のことを考えると、現在は英語版の大会運営マニュアルがあるわけですが、簡潔なToDoリストを作成して配布するのがよいだろうと思いました。また大会の2日前くらいから日本からのスタッフが現地に入って、指導ができることが理想かと思います。
トーナメント表が選手に配布されていない状態で試合が進行されましたが、予定した15:00に全試合が終了という、イタリアの時間感覚としてはちょっと驚異的な、予定通りの終了でした。
大会終了後には、ヨーロッパの支部長会議を開催し、イタリア、フランス、スペイン、英国、リトアニア、マルタ、ギリシャ、アルメニア、ルーマニア(国内に支部はまだありませんが)からの代表が出席しました。なお、私は空道ヨーロッパ委員会の委員長を兼ねています。
初めに、ウクライナにおける支部の状況について報告したあと、来年のヨーロッパでの大会やセミナーの活動計画について意見交換し、9月と10月を中心に、これらのイベントの開催国について、具体的に議論できました。今後、早めに、時期とイベント内容の調整を進めていく予定でいます。

【セミナーおよび昇段審査】
30日午前の技術セミナーは、東亮汰塾長秘書が指導しましたが、私はこの後の組手審査の組み合わせの見直し(当日になって2名が追加、1名が棄権しましたが、年齢や体格を考慮して対戦表を見直すには、大変な労力を要します)に没頭していたため、残念ながら技術セミナーの内容は把握できませんでした。当日になって追加になった2名は、支部長のところでの問題で総本部まで審査申込書が提出されていなかったようで、本人には責任がないため何とかしましたが、毎回組手審査の対戦表の作成には苦労します。
基本から寝技までは、昇段審査採点表に基づいて、13名の受験者を3名で分担して採点しました。基本と移動は狐﨑全日本空道連盟副理事長が号令をかけ、投げから寝技までは東亮汰塾長秘書が担当しました。
最終的に、9名を合格、4名を保留としました。保留となった中の1名は、組手審査はパスしたけれども基本と移動で不合格としたものです。基本と移動は、全体的によくできていました。
13名の受験者のうち私が採点を担当した高段位の4名は56~69歳でしたが、健常者ではない1名を除いて、よく動けていました。日本の支部長やBCにもまったく引けを取らない、あるいはそれ以上とも言えると見ました。日本からの審査員の前で審査を受けるこの日のために、よく努力していたと思われます。

【おわりに】
先のブラジル遠征の際には、アメリカ大陸については、来年は南北に分かれて国際大会等を開催する方向に指導しましたし、今回のイタリア遠征では、ヨーロッパセミナー、ヨーロッパジュニア選手権大会(場合によっては東西に分けて開催)、一般部のヨーロッパ選手権大会について、開催時期と開催地の選定をスタートさせました。来年の世界大会の日程が5月13日と14日になることが決定したばかりですが、その後の世界中での活動計画の策定にも着手したという状況です。
私がKIF理事長でいる間、国際審判員の育成および大会運営のレベルアップを重要なミッションとして、これに注力していきたいと思っています。このためにも、国際大会の開催頻度を高めて、大会運営と審判の経験を蓄積していくことが必要だと考えています。
ブラジルと今回のイタリアでの大会で共通に、開会式で私から次のように挨拶しました。
「空道の試合は厳しい闘いです。しかし認識しておいてほしいのは、良い相手がいて初めて良い試合をすることができるということです。対戦相手は、憎しみ会う敵ではなく、良い試合をするためのパートナーです。お互いに、空道ファミリーの一員として、リスペクトしあいましょう。皆さんは、ヨーロッパ内の空道ファミリーの一員であることは、よく理解しているでしょう。その空道ファミリーの中心に居る東恵子事務局長を紹介します。」
ブラジル遠征とイタリア遠征には東ファミリーが同行され、事務局長から、東先生が亡くなられた後のお見舞いへの御礼や、今後への期待を話されました。このような機会は、今後はなかなかない、貴重なものだったと思います。
KIFが関係する今年度のイベントは、今月の空道アジア選抜選手権大会で終了と考えていましたが、来年の3月にマルタでジュニア向けの国際セミナーを開催したいという要望が示されました。要望には、可能な限り応えていきたいと考えています。いろいろなイベントが、海外での空道の発展に繋がっていくことを期待しています。