ブラジル遠征 レポート 神山歩未(日進・長久手支部 )

押忍

日進・長久手支部の神山歩未です。

2022年9月23日より29日までの、ブラジル遠征について報告いたします。

 

1.バックグラウンド

遠征報告の前に、自分のバックグラウンドを紹介させてください。

あれから10年以上前になりますが、闇雲に稽古をしていた選手時代、頭を殴られたような衝撃を受けた言葉があります。それは孔子の、「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。」という言葉です。簡単に訳すると、「知っているという人より、それを好きだと思っている人の方が上。そしてそれを好きだと思っている人よりも、楽しんでいる人の方が上」。といったところでしょうか。

私は、空道大道塾にどっぷり浸かった家庭に生まれ育ち、これまで空道一色で生きてきました。女の子ばかり3姉妹の家庭にも関わらず、家族中が空道に取り組んでおり、生活そのものが空道で、家庭内の会話も、なにもかもが空道中心という生活。さらに、空道の歴史が大道塾の歴史をようやく超える昨今になってようやく「空道」という名称に違和感を感じなくなってきましたが、空道がまだ格闘空手大道塾の頃から私たちは、大道塾と共にあり、家族の歴史を大道塾そして空道と共に紡いできました。空道大道塾のなかでも古く、且つ、ここまでどっぷり浸かっているのも、空道界広しと言えど、私たち家族くらいなのではないかと感じます。そして、最近では、嬉しいことに、ジュニアカテゴリーで2世の選手が増えてきましたが、やはり空道の2世と言ったら、私たちが一番古いのではないかと思います。とにかく、空道一色だったため、選手の頃は、「好む」ですとか「楽しむ」といったことはなく、生活の一部なので、ある種、歯磨きをすることと同じような感覚で、磨かなければ気持ち悪いけれど、いちいち磨くのがとても面倒だといった感覚が、私の空道に対する感覚に近かったように思います。

なので、冒頭であげた言葉を聞いた時、とても大きな衝撃が走りました。「私は空道を楽しんでいるだろうか?」、と。

 

2.パンナム大会2022於 ブラジル

光栄なことに、パンナム大会は、前回のコロンビア開催に引き続き、2大会連続参加させていただく運びとなりました。前回のコロンビアの大会にて、次回はブラジルで開催したいと立候補してくださった地での開催は、ある種、胸が熱くなりました。

先の大会と今大会を比較すると、今大会では、選手のレベルが格段と上がり、国際大会と自信をもって言える大会レベルだったと感じます。前大会では、選手も未だ洗練されておらず、反則の連続でしたが、今回は、女子も含め、前回世界大会に出場した選手も数人出場しており、とても白熱した試合を観ることができました。また、前大会と大きく異なるのは、今回の大会では、審判員の指導が可能になったことだと思います。前日に、審判に関する講習が行われたことに加え、大会時にライセンス取得のための試験も行われ、南米の空道がどんどん精緻化されていくのを感じました。

さて、前回の大会時、髙橋首席師範より、「空道を誰よりも楽しむことができるのは、主審の位置だ」、とのお言葉をいただき、衝撃を受けたことを覚えています。それまでは、間違えないことや、しっかりみて、見過ごさないことばかりに必死になり、楽しむ余裕など一ミリもなく、ただただ緊張のなかにあり、震える手を隠すことで精一杯だったのですが、首席師範からのお言葉で、審判に対する認識が変化しました。コロンビアから帰国後、いくつか大会にて審判を経験する中で、首席師範のお言葉の通りだと実感しました。特に今大会では、私自身も、選手の息遣いが聞こえるすぐ側という最高の位置で主審として試合を観戦させていただき、大会を思う存分に楽しませていただきました。

 

今大会では、我が日進・長久手支部より先の全日本大会240の部で優勝した伊東が同行しました。伊東は、幼年部のころから、一緒に稽古をしてきた選手なので、彼と一緒に海外遠征に出られたことは、私にとって、とても感慨深いものがありました。初の海外、まして36時間の長旅の末、時差もあり、食べ物事情も日本とは異なる環境のなか、本当によく頑張ってくれたと思います。決勝では、地元でも大人気、MMAでも活躍するジェイミー・Jr・ゴメス選手とあたり、とても力強い突きの連続攻撃にも押されず、空道本家日本の底力を見せてくれたように思います。伊東は、お世辞にもセンスが良い選手とはいえません。愚直に神山支部長の稽古理論通り、基礎稽古と反復練習を徹底的に行い、今に至ります。特別な稽古をしたわけでも、他格闘技を学んでいたわけでも、運動能力が優れているわけでもありません。体格もさして大きくありません。文字通り、子どもの頃から、空道しか知らない選手です。なので、手前味噌になってしまいますが、今大会の結果において、神山支部長の理論が証明されたのではないかと思います。

 

3.審判について

先のコロンビアでも、また今回のブラジルでも、国際大会での主審というとても良い経験を積ませていただきました。私はまだまだ本当に未熟で、戸惑うことや、間違うことが多々あります。それでも、どこがいけなかったのか、どこを間違えてしまったのか、最近では自分で気がつけるようになりました。これも全て、首席師範のご指導の賜物だと感じます。まだまだ学び途中なので、自分が選手の時にやっていただいたように、これからももっともっと審判としての経験を積んで、選手たちが試合で稽古の成果を遺憾無く発揮できるよう、すこしでも恩返しができるよう精進していきたいと思います。

そんなことを考えながら、帰りの新幹線に揺られていた時、首席師範より審査受験をしていたS級審判資格の認可のお知らせをいただきました。私は、東先生がお亡くなりになる前、女子でS級審判資格を取るようにと命を受けておりました。そのために、昨年、S級審判資格の取得ができるよう段位をあげ、これまで挑戦し続けてきました。ここに来てようやく、東先生とのお約束を一つ叶えることができ、また目頭が熱くなりました。

空道は、確かに精神的にも肉体的にも、とても過酷な競技だと思います。ですが、その分、感動や喜び、達成感が大きく感じられる素晴らしい競技だと感じます。女子で、全日本大会への挑戦や、その上の国際大会への挑戦は、ひょっとするとハードルが高いことなのかもしれません。ですが、それぞれのレベルにおいて自分自身を向上させていくことは、誰でも可能だと思います。もちろん選手としての経験があれば、審判をするうえでも、とても役に立ちますが、審判に関しては、大会実績や国際大会出場経験が必須ということもありません。女子でも、私のように体が小さくても、審判ライセンスの取得は可能です。そして審判ライセンス取得のための昇段も、各々のレベルで挑戦していくことが可能です。競技人口が少なく、整備が整っていなかった時代からすると、今現在は、女子であっても、男子と同じように、昇段や審判ライセンス取得が可能です。そのための道は大きく開かれています。一時期、「ガラスの天井」という言葉が流行りましたが、空道においては、ガラスの天井を作っているのは、一人一人の意識だと感じます。ガラスの天井を壊して成長するのか、そこに甘んじるのかは、一人一人の意識と選択によると思います。

 

4.最後に

空道は、トレース支部長が地元ブラジルでの国際大会開催を叶えたように、各々の夢が叶う世界だと思います。それは老若男女関係なく、自分が志した事をひたすらに追い求め、挑戦し続ければ、必ず、思い描いた未来を手にすることができる、そんな可能性に満ち溢れた素晴らしい世界だと感じます。その中で、最高の自分に出会う喜びと感動、そして、空道を通じて得られる様々な機会によって、如何様にも楽しむことができます。私自身、空道を通じ、日々の稽古、選手時代、審判員としての経験、国際交流、指導、審査等々、あらゆる面において、自分と向き合うことや文化や環境、思想が異なる多様な人々と交流することなど、とても楽しいと感じます。ただ精神や肉体を鍛えるだけでなく、「文に親しみ知力を練り、人と結びて有情を体し」と道場訓にあるように、人と人とが暖かく心で交流できるのが空道だと感じます。

遠征中に、選手の成長のために海外での経験を積ませるべきだと思われていた、亡き東先生の暖かな思いも、事務局長より伺いました。先生亡き後、初めての対外試合に臨ませていただけた選手が日進・長久手支部の伊東であったこと、そして私が同行させていただけたこと、とても光栄に感じると共に、大きな感謝の気持ちでいっぱいです。

この機会をくださった、東家の皆さまに、この場をお借りし深く深く感謝申し上げます。ありがとうございました。