伊東宗志(日進支部)ブラジル遠征記

【はじめに】

押忍、日進支部の伊東宗志です。ブラジル遠征に同行させて頂きましたのでご報告致します。

自分は、この度、ブラジルのポルト・アレグレという都市で開催された空道パンナム選手権大会出場のため、日本遠征メンバー(高橋英明師範、東家の皆様、神山歩未先輩)に同行させて頂きました。選手としてこのブラジル遠征で感じたことを述べさせて頂きます。

 

【ブラジル、ポルト・アレグレへ】

日本の成田国際空港からポルト・アレグレのサウガード・フィーリョ国際空港まで35時間という長い長いフライトでしたが、初遠征、初海外の自分には何もかも新鮮で、大変ではありましたが苦痛ではありませんでした。長いフライトや、途中経由したドーハ・ハマド空港、サンパウロ空港で見たもの全てが未体験で、とても面白く感じました。しかし、空港の手続きにおいて、英語やポルトガル語が解らない自分は空港の職員が何を言っているのか解らず歩未先輩や由美子さんの通訳をずっと必要とし、大変迷惑をかけてしまいました。特に歩未先輩は自分に付きっきりで面倒を見ていただき、空港のチェックイン、入国審査、税関審査、出国審査、全ての手続きにおいてずっとお世話になりました。歩未先輩、本当にありがとうございました。

 

【空道パンナム選手権大会】

パンナム大会では、ブラジル、アメリカ、メキシコ、ボリビア、コロンビア、日本の6ヶ国が参加し、自分の階級-240クラスでは6人で優勝を争いました。

試合結果は、優勝こそ出来ましたが、自分が戦った3人とはどれも接戦で、一筋縄ではいかない試合でした。自分が戦った3人のそれぞれの印象を述べさせて頂きます。

 

・初戦Calros Eduardo Vidal Torres選手(ブラジル)

初戦は自分の動きが悪いのもありましたが、相手の動きと噛み合わず自分が納得のいくような試合内容ではありませんでした。相手のトーレス選手は攻撃が当たる間合いに入るのに躊躇がなく、間合いに入れば突きと蹴りのコンビネーションを畳み掛けたり、いきなり後ろ回し蹴りを蹴ってきたり、とてもアグレッシブな選手でした。急に間合いに入られたりして距離間を狂わされ、非常に戦い辛かったです。自分が効果1を取れたもののトーレス選手にも顔に軽く突き入れられたりして、危ない試合をしてしまいました。

 

・準決勝William Rosa選手(ブラジル)

準決勝のローサ選手は、テコンドー仕込みのトリッキーな蹴りが得意な選手で、飛び前蹴りや、中段蹴りからの後ろ回し蹴りと多彩蹴り技に翻弄されました。しかし、突きは単調でガードを下げて打ったり、ガードもボクシングのように顔の前に手を置いてくれていたので自分の突きが入り易かったです。突きの連打で一本を取ることができましたが、突きを当てても構わず向かってくる根性がある中々タフな選手でした。

 

・決勝Jaime Junior de Lima Gomes選手(ブラジル)

決勝のゴメスJr選手は地元ブラジルで人気のMMAでも活躍している選手で、自分が今大会で最も警戒していた相手でした。人気に違わぬ強さで、彼の初戦では相手に何もさせず突きの連打で一本勝ちをしており、自分も今まで以上に気合いが入り、試合に臨みました。 ゴメスJr選手は攻撃のスピード、コンビネーション、タフさ、突き蹴りの1発1発の重さ、思い切りの良さ、全てにおいてレベルが高かったです。突きの回転も速く自分が突きを当ててもその回転スピードに負け、顔に突きを入れられ効果を取られたり、効果を取られるギリギリの突きを顔面に入れられたり、非常に苦戦を強いられました。ギリギリで延長戦になり、ゴメスJr選手が左手を負傷しアグレッシブさが若干無くなって自分が効果を取れたため彼に勝つことができましたが、本当にどちらが勝ってもおかしくなかった試合だったと思います。この試合は自分が今まで試合した中で最も印象に残った試合の1つになるくらい思い出深い試合となりました。

 

パンナム大会で初めて海外選手と試合をして思ったことは、日本人と比べて全ての選手にアグレッシブさやタフさがあることです。技術面においては日本人の方がレベルが高いとは思います。しかし、南米の選手は技が荒いとはいえ、非常に地力があり、攻撃に躊躇がなく、技術では勝っても1度勢いに飲まれてしまうと中々巻き返すのが難しいと思いました。また、今はまだ技術がなくても、今後、空道の基本稽古、移動稽古など基礎をやり込み技術面も身につけてきたとき、果たして日本人は勝てるのだろうかと恐ろしく感じました。

このパンナム大会で、海外選手はどれくらいの実力なのか、今自分が海外選手に通用するのか、色々なことを感じたり、わかったりしてとても良い経験になりました。この経験を後の東アジア大会に活かし、世界大会目指して頑張っていきたいと思います。

 

【ブラジル遠征を通じて】

このブラジル遠征を通じて自分は、何事にも変え難い経験をさせていただきました。ポルト・アレグレの支部カルロス・トーレス支部長をはじめとするブラジルや南米の空道の方々の優しさ、ブラジルの文化、食べ物の美味しさ、ポルト・アレグレの街並み、全ての経験した事が自分にとって新鮮で変え難く、かけがえのないものになりました。

自分の中で特に印象深かったものは、南米の方々の「空道に懸ける想い」です。南米の皆さんは本当に空道が好きで、そして色んなものを背負い取り組まれていると感じました。特にそのように感じたエピソードが2つあります。1つはブラジルのルイス支部長の事です。ルイス支部長はポルト・アレグレに到着したときに空港で日本メンバーを出迎えてくれ、初対面の自分にもとても優しくしてくれました。セミナー・審査会で2段の昇段審査を受けていたルイス支部長は、昇段合格と言い渡されたときに泣いており、理由を聞くと「亡くなった親友がいて、その親友が着ていた道着を着て今回の審査を受け、無事に昇段を受かることができたから」と教わりました。ルイス支部長の亡くなられた親友の分の気持ちも背負い今回の審査を受かるという想いを聞き、自分もルイス支部長の想いに感極まって泣いてしまいました。

もう1つは、コロンビアのバルガス選手の事です。バルガス選手はコロンビアの支部長でもあり、前世界大会、前ワールドカップに出場して、今回のパンナム大会にも出場したモノノフです。バラガス選手は前ワールドカップの後、足を切断するかもしれなかったという大怪我をし、それでも頑張ってリハビリをし、4年の歳月を経て今回のパンナム大会に復帰してきました。本当に一生懸命で真摯で真面目に空道に取り組んでおり、自分が「なぜそんなに頑張れるんだ」と聞くと彼は「これが私の人生だから」と言い、自分はそれを聞いて今自分はそこまで言えるくらい空道に向き合えているだろうか、と非常に考えさせられました。そして今一度、この経験を糧に空道と向き合っていきたいと思える良い経験となりました。

自分は日本でしか空道を知らず、海外の空道のことは想像するしかありませんでした。しかし、今回ブラジル遠征で海外の空道を肌で感じ、海外の方々の空道への想いを実感する事ができました。本当に貴重な経験をさせてもらったと思います。また、事務局長が「もっと選手のために海外での経験を積んで欲しい」と仰られた通り、自分ももっと多くの選手が海外遠征に行ける機会が増え、空道の海外遠征でしか味わえない貴重な体験を経験できればいいなと心から思いました。

 

【おわりに】

今回同行してくださった高橋師範、東家の皆様、歩未先輩、またブラジルのカルロス・トーレス支部長をはじめとするブラジルの皆様には大変お世話になりました。おかげさまで自分が初めての海外遠征でも不自由なくブラジルで過ごすことが出来ました。本当にありがとうございました。特に、歩未先輩には自分が幼年部の頃からお世話になっており、その歩未先輩と一緒に海外遠征に行けたことは感慨深く、とても嬉しく思います。今回のブラジル遠征でもずっと自分に気にかけてくれて、色々サポートをして頂いてとても助かりました。そして、日進支部で誰よりも弱かった自分をここまでの選手に育ててくれた神山先生やずっと応援してくださった日進支部や他の支部の全て皆様、そして両親には感謝しかありません。最後に、今回のブラジル遠征への縁を下さった故・東塾長に感謝を述べたいと思います。

本当にありがとうございました。

押忍。