この対談は『月刊空手道』(福昌堂発行)1988年3月号に収録されたものです。寮生制度は掲載当時のものです。現在の寮制度についてはこちらをご覧ください。
寮生・内弟子募集
内弟子、これは何も大道整や空手界独特のシステムではない。日本では古くから武道、芸術の世界のみならず、商工業に至るまで広く存在した『徒弟制度』である。つまり、そのフィールドのエキスパートを養成する制度であり、内弟子はその意味ではエリートなのだ。
武道界においては、かの剣豪、宮本武蔵の弟子、伊織がそうであった。
しかし、この日本特有のシステムも時代の流れによって盗を消しつつある。
志を同じくする者逮と寝食を共にし、単に務古だけでなく、日常の雑用をこなしながら精神的な向上を期す、こんな内弟子制度も封建性の敬遠、西洋文明の波の中で今ではあまり見られなくなってしまった。空手界を見てみても、最近では極真会館を筆頭にフルコンタクト系の団体で若干兄られる程度に過ぎない。
エリート養成機関、内弟子制度。これは近年、特に成長の著しいニューウェーブ空手だからこそ存在しうるシステムだ、といえるのかもしれない。
社会人として通用する人間を養成する
それではさっそく格闘空手最強軍団・大道塾内弟子を紹介しよう。
大道塾では内弟子を『寮生』と呼んでいる。現在では東京本部に7入、東北本部に7人、関西本部に3人、そして九州本部に3人と、全国に散らばる。
第1期寮生の「ミスター格闘空手」岩埼弥太郎を始め、佐和田亮二、比嘉正行、長田賢一、そして’87チャンピオンの山田利二郎(3年生)といった益いる強豪の多くが寮生出身である。
寮生活は3年、当初2ヶ月間は仙台の東北本部で研修を行ない、その後本人の希望、および実績により全国の地区本部道場に入る。(原則として1年ごとに移動)卒寮後は1、2年間直轄支部の指導員として送るほか(希望者)将来、大道塾の支部を聞くなど、大道塾発展に関わる事を目標とする人間を寮制度によって養成しているのである。
入寮者の条件としては、原則として18歳(高卒)以上22歳以下(家業を継ぐ者は24歳まで可)。体力指数(身長+体重)235以上(例外あり)ウェイトトレーニング、100m走、3000m走、柔軟性において規定の基準を満たす事。筆記試験に合格する事など、なかなか厳しいものである。
また、大道塾では、空手人以前に、あくまでも一般社会人として世の中に通用する人間を養う、といった,アマチュアニズム遵守 の方針から、寮制度に関しても実に独特な姿勢を堅持している。
『大道塾の寮制度は、武道スポーツとしての「格闘空手」を通じて、重要な日本文化である武道精神を身につけ、社会人としての人格の完成と、日本を支える人材の養成を目指すもので、単に空手のみに偏った、また空手で生計をたてる人間を養成するところではない』
このような東孝氏の主義から、昼間、アルバイトをする事によって社会勉強をしたり、大学に行く事を推めている。また卒寮後も、直轄支部指導員として従事できる場合は、給料を支給し、昼間は各種学校などに通学して資格を得る事も奨励している。
さて、この寮生は正式には一般寮生と職員に分けられる。一般寮生は、昼間学校やアルバイトに行く者。一方職員とは昼間、大道塾において事務や雑用を行ない給料を得る者である。
いずれにしろ、大道塾寮制度は、格闘空手のプロフェッショナルエキスパートとしての実力者を養成する一方で、あくまでもアマチュアという立場から、空手を武道として純粋に追求できる、経済的基盤を持つ人間を養う事を目指しているのである。