この対談は『月刊空手道』（福昌堂発行）1988年7月号に収録されたものです。肩書は掲載当時のものです。
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麻生秀孝
（あそうひでたか）
昭和25年10月29日、広島県生まれ。身長180センチ、体重96kg。柔道5段、アマレス4段。柔道、サンポで世界的活窪をする。現在、全日本サンボ連盟常務理事、サブミッションアーツ代表師範。プロレス崩れ、紛い物の多い新興格闘技の中で、麻生氏は常にアマチュアリズムにのっとった本物の格闘技を追究している。
佐藤俊和
（さとうとしかず）
昭和22年4月20日、秋田県生まれ。身長178センチ 体重80kg。極真会館4段。極莫会第4、5回全日本大会3位。極真会第8回全日本大会優勝。現在、秋田県本荘市市議会議員。極真史上、彼のファイテイングスピリツトはNo.1といえる。
現在も極真会館秋田支部師範代として、後進の指導にあたる。
―― 最近、空手や柔道など武道の分野でも外人勢の活躍が目立ちますが、本家日本という立場から、このような事態をどう思いますか。
佐藤 何も武道が日本だけのものだとは思っていませんがね、しかし武道というのは単に格闘技である以前に道徳であれ、礼儀であれ、精神的に自分を鍛えるための道だと思うんです。この日本の歴史と伝統に培われた武道はやはり私達日本人が世界に主導していかなくてはいけないのではないでしょうか。そのためには試合でも日本人がトップをとらなければいけないと思います。
麻生 僕は柔道という武道を中心に、レスリング、サンボなどの武道的なスポーツに関ってきたわけですが、柔道を見るならば僕も日本がリードしていかなければいけないと思いますね。武道は佐藤さんがいうように決して格闘技だけではないんです。心が大切だと思うんです。しかし、外人はまだまだ日本武道というものに対して完全に理解していないと思うんです。スポーツとしての考え方があまりに強いんです。外国の人は西洋的合理主義というか個人中心主義なんです。それに対して武道の心とは集団の中における自分を絶えず意識して自分を磨くという考えです。それを外人に理解してもらうためにも、また日本が世界をリードしていく必要があると思います。
佐藤 以前アメリカに遠征した時にね、アメリカ人選手は組手でこう言うんです。「ゴー・ヘル(地獄に落ちろ）」ってね。自分より強い先輩や師範には絶対いわないくせに下の人間には平気でいうんです。それからヨーロッパに行った時、外人の練習生は平気で道場内を靴を覆いたまま歩くんです。私が靴を脱げといっても「いやいや自分達の道場はいいんだ」といって話を聞こうともしないんです。本当に武道を学ぶ気があるなら、日本人の生活習慣、精神を学ぼうとしないでどうするんですか。それで試合をして優勝を外国に待っていかれるようでは日本の武道は外人に馬鹿にされているという事なんです。試合、大会で日本が外人に勝てなくなれば、今度は外人が外人に武道を学ぶという事になる。そしたら日本武道はどこに行ってしまうのでしょうかね。たとえ他の空手がそうなってしまっても、極真空手だけは、今も昔もずーっと武道空手という事に誇りを持ってやってきたのですから、絶対外国には負けてはいけないと、こうして自分達は現役時代やってきました。先日の第4回世界大会でも松井君を始め日本選手はよくやったと思います。あれで、松井君の闘い振りで本家日本の威信は立ったし、日本武道のなんたるかを世界に示せたと思いますね。
麻生 さっきもいったように私も柔道を中心にサンボなどやったのですが、レスリング、サンボなど、日本武道とは異なるものをやって、少し離れたところから武道を見る事もできるようになったんですが、要は、武道精神というのは心の中にあるファイティングスピリットじゃないかと思うんです。精々堂々と、逃げる事なく、筋を通して相手に対する。何が何でも前に進むというこの意見込みこそが個人的には武道精神だと思うんです。
―― 世界のスポーツ界にあって日本はだんだん世界レベルから遅れてきていますが、特に今年のソウルオリンピックに向けて、日本スポーツ界のあり方、対世界という事を考えた時、我々日本人はどういう点を心がけたらいいでしょうか。
麻生 日本人はね、全体的に世界の舞台で弱いといわれてますよね。外人コンプレックスとでもいうのでしょうかね。サラエボの時の黒岩、ロスの瀬古など、どうも外人相手だと実力を発揮できないんです。それは日本人は島国根性というのか大陸的じゃないでしょう。さっきの話に出たようにプレッシャーに負けやすいんです。ところが外人もね、日本人を怖がっているんですよ、武道、サムライの国ですからね。だから日本人は「大和魂」自分達に自信を持つ事が大切だと思うんです。
佐藤 その通り、自信を持つ事、これに尽きますよ。短絡な話ですけど、自分達は日本人であるという事に誇りを持ってね、精神力では絶対負けないと、これが一番大切でしょうね。もっともそうなれるためには人一倍、稽古に汗を流さなくてはいけないし、涙も血も十分に流しておかなくちゃいけないですよ（笑）。外人は大きい、パワーがあるというなら、こっちもトレーニングでパワーをつけりゃいいんです。技術だってそうです。特に日本人は器用ですから技は随一です。そして気力は大和魂です。心技体、常に自分を追い込んでおく、そうすれば後は運を天にまかせるだけですよ。今の日本人に一番大切な事、それは理屈じゃなくて、稽古に裏付けられた自信を持つ事、これじゃないでしょうかね。
麻生 そうそう。そのためにも日本を代表する武道でね、日本がずーっと世界をリードする事です。
佐藤 その通り。空手は極真会が世界をリードし、日本人がその項点に立つ事。まだまだ日本も捨てたもんじゃないですね。
