この対談は『月刊空手道』(福昌堂発行)1984年11月号に収録されたものです。肩書は掲載当時のものです。
―― まあ、そういった背景で東先生は新しいスタイルの空手を始めたわけですけど、白鳥先生から見てどうですか東先生の空手は。
白鳥 試合とかの場合はグローブじゃなくてスーパーセーフを付けるわけでしょ。
東 そうです。あれ付けての直接打撃制です。つまり顔面パンチも認めて、投げ有り、体力差がある場合は金的蹴りも認めちゃうという。
白鳥 ホー、すさまじいね。で、どうなのかね、そのスーパーセーフっていうのは。
東 もちろん素手、素顔で殴れないですからね。一応、目と鼻、歯を保護するためには今のところこれが一番じゃないかと思うんです。
白鳥 まあ、脇の所はボクシングのヘッドギヤみたいなもんなんだけど、この前ちょっとかぶってみたけど呼吸が苦しいな。そうかといって穴を大きくすると疲れる可能性かあるし、それに前がほら球面でしょ、面から顔の所まで約五センチ間があるよね。二人で十センチというのはこりゃ距離感狂うよ。
東 まあ、耐久性を考えてこうなったんだろうけど。もっといいのが研究されればいいんですけどね
白鳥 でもボクシングでも普通グローブじゃ怪我はしないんだよ。問題はパッテイングなんだ。跳ぴ込んだ時にね、いわゆる頭突きで怪我するわけなんだ。そこへ行くとこういう顔に付けるマスクはいいかもしれないな
―― ただ顔を打った場合の、効き方というのはどうなんでしょう、マスクとグローブの違いは。
白鳥 大体ボクシングでは顎、こめかみを狙うんだが……。
東 このマスクを付けてもやっぱり同じような所が効きますね。それにグローブにしてもマスクにしてもどっちみち顔殴るんだから無茶苦茶やったら脳障害は起きますよ。たから問題は稽古の仕方だと思うんです。先生どうですか、ボクシングのスパーリングではどの程度の頻度でやるんですか。
白鳥 まあ、もっとも人にもよるんだけど、週に一回ぐらいですかね。週一回だけで自分の練習の成果が出るのかどうか、人によっては週二回とかね。でも反射神経を保つという面からいえば週に一回ぐらいがベストでしょうね。
東 やっぱりね、うちでもそうです。マスクを付けての組手は週に一、二回が限度です。
白鳥 マスクじゃなくてさ、グローブでやるっていうのはどうなの。
東 そうなるとまず感覚的にも空手から離れちゃいますよ。それにグローブを付けたらもう体重制にするしかないですよ。
白鳥 なぜ。
東 顔面の場合はグローブもマスクもあまり変らないにしても、ボディは効き方が全く違いますからね。
白鳥 例えばどういう風に違うわけ?
東 ボディー攻撃は顔面を打っておいて不意にボディーを打つというのが一般的ですよね。空手なら脚からという手もありますが……。この時、グローブで連打されると腹筋を締めていても効きますからね。素手なら何発殴られてもその時、腹筋を締めていれば殆んどダメージはないんですよ。腹筋の弱い者は別として。
白鳥 本当?ちゃんとみぞおち狙っても?
東 いや、みぞおちだろうと、レバーだろうと、極真やうちの連中は無茶苦茶打ってますよ。でも鍛えてれば効かないんです。自分も昔グローブを付けてよくやりましたけど、ボディの場合素手で我慢できてもグローブじゃ我慢できないですね。
白鳥 何故だろうね。
東 やはり、重さが加わるとか、当たる面積の違いとか何かあるんじゃないでしょうか。だからね、フルコンタクトの組手ではね、ボディなんか五十発や百発軽く殴り続けますよ。グローブつけてちゃね、ボディだけに限っても連打をもらうとキューッとしますからね。
白鳥 心臓はどうなの
東 心臓の上だって極真の選手はどこでも殴りますよ。それほどグローブをつけるとダメージが違うんですよ
白鳥 僕はグローブ付けてしか殴り合った事ないから実感がわかんないけど、そういうのあるかもしれないな。昔クロープに馬のシッポの毛が入っていたんです。最近はそのかわりスポンジでしょ。前のグローブは当るとパチーンと痛みが来るけど、サッと逃ける気がするんだ。だけどスポンジのはジワーって来る。何とも気味悪い衝撃なんだな。それと共通するかもしれないね。
東 先生、だから昔からよく急所がどうのっていわれてますけどね、顔と金的以外だったらまず素手じゃ効かないですね。何と形容したらいいのかな、鉄砲の玉なら、至近距離融から撃てばスポンと穴があいちゃうけど、大砲の玉なら体がみんな吹っ飛んじゃうといった、そんな感じですね。素手とグローブというのは。それに中国拳法でいう発勁っていうの(?)よく中国拳法は体の内面を壊すというけど、あれも今言ったようなグローブの原理と関係あるんじゃないですかね?腰とか足の使い方でああいった突きを出すわけでしょ。
白鳥 しかし今の話は一般の常識からいくと不思議だね。
東 だからこそ空手で、それも素手でボディを打って倒すには、上段の攻撃で相手の意識をよそに向けるとか、攻撃を散らさない限りまず無理なんですよ。自分もそういった経験をして初めて、グローブは安全だという事に対する認識が変ったんです。ただグローブというのは歯を折ったり、皮膚を切ったりしないためには有効かもしれないけど、逆に恐しいものだという事がわかったんです。だからグローブでやり合ったらとてもとても、無差別じゃ試合できないですよ。
白鳥 これは本当に新しい発見だな。僕もこの事については近いうちに必ず実験測定して数値的なデータを出してみる事にするよ。