この対談は『月刊空手道』(福昌堂発行)1993年8月号に収録されたものです。肩書は掲載当時のものです。
司会 生島隆
強さにこだわり続ける格闘集団・大道塾の長、東孝氏と、元祖マルチ格闘家、健闘塾の阿部健一。地昧で不器用ながら、格闘技にかける情熱はハンパではない、似た者同士だ。白熱の祭典、ザ・ウォーズの開催に賭ける東氏と、一年半ぶりの復活をザ・ウォーズ参戦で果たす阿部氏に、本音をぶつけあってもらった。
アマチュアは、いかに
一生関わっていくかだと思う(東)
生島 あとは7月8目、阿部君の勇姿を見るだけですね。それでは、ちょっと話を戻して、プロとアマの問題についてお聞きしたいんですが。
阿部 自分の昔からの友人で、キックの立嶋がいるんですが、彼なんか、仕事もしないでキック一本にかけてますよね。彼なんか今時珍らしいプロの選手ですよね。自分の場合は、親に散々迷惑かけましたからね。俺、やっぱり仕事はやんなくちゃと思いました。今は親も安心してくれていると思います。仕事は仕事でキチンとやって、あとみんなで、健闘塾を一緒にやりたいです。
生島 なるほどね。
東 アマとかプロとかを問わず、こういう格闘技の世界に入ってくる人間っていうのは、当然だが性格的には、絶対に人に負けたくないっていう気持ちがあると思うんだ。極真で言えば、黒沢選手とか、増田選手とか、見ててわかるじゃない。それでも彼らが、プロの道を選ばないで、アマの中で生きてるってことが、俺はすごいことだと思うよ。
今、彼らが、アンディとかトンプソンとかの連中と、プロでやるっていえば、お客さんはつくと思う。でも彼らは彼らで、ヘタクソと思える生き方をしてるかも知れないけど、こだわるという面では半端じゃない。
生島 プロ、アマとも、それぞれのプライドがあるし、空手界にとってプロ化の是否は、質否両論は当然のことですが、ただ、現在、若い人の中には、プロに専念しなくとも、戦いの場を求めていきたいという人もいると思うんです。社会人として仕事をしながらも、阿部君はどうですか。
阿部 自分の生活がきっちりしていれば、逆にプロの場でも戦ってもいいと思います。アマだから弱いと思われたくないし。
生島 そこで、今回、大道塾の7月8日の「93ザ・ウオーズ」は、アマのネットワーク化と世間ではいわれますが、プロ・アマ問わず、認められる舞台の提供という意味では、とても素晴らしいことと思います。やはりぜひ継続して開催してもらいたいなと思ってます。ただ、人によっては、アマのネットワーク化なのに、何でグローブなのかっていう見方もあると思いますが。
東 グローブに関しては、格闘技というものをグローブも経験して骨太にする意味があると思う。ただ、そういう技術的なことよりも、あえてプロにならないアマの中にもこれだけの素晴らしい人材がいるというアマの主張という点はある。前の話に戻るけど、プロというのは、最終的には、それで生活できるのが本当のプロだから、空手の世界でそこまでいけたら本当にすごいけど、その評価は10年見なければ。
生島 確かに、空手界にも今、プロ化の波が徐々にではあるが押しよせている。言葉を変えれば、今、その土壌を作っているところでもあるから現段階では評価をしてはいけないことは確かです。それはアマの場合も同じで、従来のアマの活動とはチョッと違ってきている。評価はもう少し時間がたってからという気がします。
対談後記
久かた振りの阿部君は、本当に元気だった。去年のトーワ杯終了後、対談の形式で話をしたのだが、奇しくも一年後、同じ場所で会うことができた。会えただけで、今日は良かった。
東先生も、去年より、元気が出てきたように思えた。何故なのかと考えていたら、どうやら原因は、5月に行ったウラジオストック支部への視察、遠征にあるらしい。話によると、ロシア人の底知れぬ体力に、もう一度、原点に帰って格闘空手を見なおさなければということのようだ。「極真時代のアメリカ遠征から帰ってきた様な気がする。もう一度自分なりの格闘空手を追求し、弟子達に教えていく」という気迫が感じられた。対談中、阿部君も東先生もプロ・アマ問題については熱く話してくれた。それぞれの考え方がある。良し悪しは別だ。でも、それぞれの立場で、やりたいことをやっていけばいいと思う。今日は楽しかった。