ザ・ソウルファイター The Soul Fighter 北斗旗王者・ 長田賢一、 灼熱の ムエタイを征く 前編 ① 2025年5月13日2025年5月9日 by 大道無門 この連載は『月刊空手道』(福昌堂発行)1987年8月号に収録されたものです。肩書は掲載当時のものです。 北斗の若武者、長田賢一がタイに飛んだ。どこにでもいる一人の青年として未知の国を歩き、空手王者としてムエタイと闘った。長田はタイで何を見、何を感じたのだろうか。この特集は、ムエタイ王者との対決に至るまでの、長田の全記録である。 試合決定!!! 次の日から長田はソッチラダージムに通う事にした。ジムに行くとやはりチェリオ氏が待っていた。自ら長田のトレーナーを買って出たのだ。さっそく長田は ランニングパンツに着がえ、ロープワー クを始めた。そしてチェリオ氏の持つミットに向って左回し蹴りを繰り出す。「熱い!」額から流れ落ちる汗が目にしみる。床のコンクリートから照り返す太陽の光が膚を刺す。「ハァーッシ!!」「ハァーッシ!!」1ラウンドが終わると、長田は膝をついて倒れ込む。「おかしい、体が重いし、何故こんなに苦しいんだろう」ここ数年、まったく味わった事のない程大きな疲労感が長田を襲った。まるでコールタールの中で体を動かすように、動けば動くほど、何かねばっこい物が体にまとわりついてくる。約二分間の休憩が終わり2ラウンド目が始まる。「ハァーッシ!!」左回し蹴りのみ、四分の間で約百発ミットにぶち込む。2ラウンド終了、肩で 息をし、膝のふるえが止まらない。 長田は、このまま3ラウンド目になっても立つ事ができなかった。 次の日も練習のメニューは変わらない。 チェリオ氏の持つミットに左回し蹴りを3ラウンドたて続けにブチ込む。今度は長田はギブアップしなかった。体調は前日よりも悪かったが、こうなれば意地でもやめる訳にはいかない。長田はミットを終えるとサンドバックに向って前蹴りとワンツーを入れた。それにしても急激なトレーニング、日本とはまったく異なる灼熱の風土、そして慣れない食事、水、長田のコンディションは最悪に落ち込んだ。