ザ・ソウルファイター The Soul Fighter 北斗旗王者・ 長田賢一、 灼熱の ムエタイを征く 前編 ②

この連載は『月刊空手道』(福昌堂発行)1987年8月号に収録されたものです。肩書は掲載当時のものです。

 四月九日、長田は体調を戻すため、オフをとる事にした。東、西と共にパタヤビーチで終日羽を伸ばした。 パタヤはバンコクから車で約三時間の距離である。 最近、日本では各旅行代理店を通してパタヤがクローズアップされているが、果たして長田達が行った日も日本からの新婚カップルがやけに目立った。しかし、思ったほど海は奇麗ではなかった。これじゃ湘南海岸とあまり変わらないじゃないか! そう思いながら、それでも長田は熱さから逃れるように海の中で泳いだ。 そこで長田は思いがけないアクシデントに見舞われる事になる。

 パタヤの海は、日本と異なり底が全面、サンゴである。そのため、海の中には決して素足で入ってはいけない事になっている。しかし長田はそんな事をまったく意に介さず素足で歩きまくった。 海から上った長田を見て、まず東が驚いた。 長田の足跡が、白い砂の上に赤くくっきりと続いているのだ。

「どうしたんだお前」

「えっ、オス!!」

「足が血だらけだぞ」

「あ!」

改めて見てみれば足の裏はザックリと無数のキズがついていた。血がドクドクと流れだす。多少滑稽な話だが、その日の夜になって笑い事では済まなくなった。その時は、血こそ派手に流れたものの、それほどの痛みはなかった。しかしホテルに帰って体の火照りがとれるとともに、足の裏が急に疼き出した。次の日の朝はさらにひどかった。足全体が真っ赤に腫れあがり、立つ事さえできない。ばい菌でも入ったのだろうか。ホテルのフロントで薬をもらい、このまま三日間、長田は安静にせざるを得なくなった。