ザ・ソウルファイター The Soul Fighter 北斗旗王者・ 長田賢一、 灼熱の ムエタイを征く 前編 ③ 2025年5月14日 by 大道無門 この連載は『月刊空手道』(福昌堂発行)1987年8月号に収録されたものです。肩書は掲載当時のものです。 三日後、長田は多少足の痛みを感じながらもチェリオ氏への挨拶を兼ねジムへ足を運んだ。まだ練習までには一時間あり、練習生は全員テレビの前に群がっていた。ブラウン管では、例のBBCテレビマッチが行なわれている。長田もみんなの中に混ってテレビに目を向けた。 そのうちに試合が終わり、アナウンサーが何やら、次の試合の予告などを話しているようだ・・・・・・すると、まったくわからないタイ語の中から「オサダ」という発音が聞こえてくる。テレビを見入って練習生達も急に長田を見つめ、興奮気味に騒ぎ出した。何が何やらさっぱりわからない。しかし、練習生達の手ぶり身ぶりで何となく事態がわかってきた。「俺が、チャンピオンと闘う事に決定した?!」どこからどう考えてもそうとしか理解できない。するといいタイミングで、同じくソッチラダージムに寝泊りしながら練習している日本人選手の富田明がやってきた。練習生達は富田にもさっそく話かける。「えっ! 長田さん大変ですよ」富田も急にあわて出した様子だ。「長田さん、チャンピオンのラクチャートと闘う事に決まったんですよ」「やっぱり……」まだ、事態がよく飲み込めず、席を立った長田は、いつの間にかジムに来ていたチャリオ氏と目が合った。相変わらず 愛想よく笑いかけるチャリオ氏、しかし長田はチャリオ氏の目に何か無気味なほどの輝やきを感じ取った。こうして、長田のまったく知らない所で試合が決定した。相手はラジャダムナンウェルター級チャンピオンのラクチャート・ソーパサドポン。日時は24日。 10日後である。 前編 次号に続く>