2020.09.11   特別企画 ‟さぁ、再び闘いはじめよう!“

コロナ問題下、選手・指導者はどう過ごしているのか?

なかなか収束しないコロナ問題。そんな中、全日本空道連盟からは秋~冬シーズンの大会実施計画が公にされた。入念な審議のもと、綿密に試合参加条件を定めるなどしたうえで、社会状況が悪い方向に転じた場合は延期の決断をせねばならない……、それまでの労苦が無になる可能性が少なからずあることも踏まえたうえでの発表。全国の少年少女からシニア層まで、‟やる側“の希望に応えるための大英断といえるだろう。そうとなれば、トップレベルの空道家から、嗜みとして空道に触れる層まで、いつまでも縮こまってちゃいられない。そこで、選手、指導者が今、どんな生活を送り、どんな稽古を行っているのか、訊いてみた。さぁ、これを読んで、さぁ、道着を着よう! 再び闘いはじめよう!

1. 選手の場合

目黒雄太

――支部自体に活動休止期間などはありましたか?

目黒 一時、体育館が借りれなくなったりとか、稽古参加者が少なくなったりとかっていう時期はあったんですけど、検温したり、マスク着用したり、消毒したり、組み技だったりの接触度の高いメニューを行わない期間を設けたり、その他いろんな対策を採って、ほぼ支部の稽古は継続されていたんです。……ただ、自分自身が月に1度くらいしか、稽古に行けていなくて……。

――それは、どうして?

目黒 コロナとは関係なく、自分自身は仕事の都合で全然、稽古に行けなくて。

――というと?

目黒 勤務先は電気屋で、電柱を使わず電線を地下に埋める、地中化をすすめる作業をしています。会社としては別作業もしていますが、今の担当はその実務です。勤め先は以前から変わっていないのですが、社長が代替わりして、社の方針がガラッと変わって……。

――海外では進んでいて、日本の課題として報じられる、電柱の地中化作業の現場にいるわけですね。

目黒 はい。日中は電気を止めることが出来ないから、仕事はどうしても夜勤になるので、夜の稽古には参加できないんです。これまでも、夜勤が1ヵ月続いたりしたときは、道場での稽古に全然参加できなかったりしたんですけど、それくらいであれば、休憩期間と考えられたんですけど……。今回は、長岡というところに住んでいるんですけど、長岡にあった営業所がなくなって、新潟の本社の方に出勤するようになって、仕事場が新潟になって、稽古は新潟の方にも全然、行けてなくて。

――長岡市と新潟市は遠い?

目黒 車で高速乗って1時間ちょっとです。去年1年はだんだん、いろんなことが変わっていった年で、去年の9月から今と同じような仕事になって、今年の4月から社長が代わって…。

――では、ある意味、ちょうど、2020年春のシーズンの大会がなくなったのはよかった?

目黒 練習量は、それ以前の大会から徐々に落ちていて、練習自体は最悪そんなに出来なくても大会は全然、出る気ではあったので、複雑な気持ちでした。

――昨年、小川英樹選手のもつ全日本同階級連覇記録V5に並んだので、記録更新が掛かっていたわけですものね。ガッカリという気持ちも大きかった?

目黒 正直なところ、半分ガッカリしつつ、半分は十分な練習が出来ていなかったので、まぁいいのかなぁと思いつつ、ただ、来年になると、もっと状況が厳しくなるのかなぁと思ったりもしています。

――仕事の忙しさは、来年も変わらない…

目黒 そうなんですよね。で、これまでは土日は、休む主義だったんですけど、これからは考え方を変えていかなきゃいけないかな、とも思っています。ただ、いずれにせよ、先生(支部長)に「出るな」と言われるくらい、ホントに練習が出来ていない状況にならないかぎりは、大会には出たいと思っています。

――1シーズン、大会が飛んだことで、年齢も1歳、上がるわけじゃないですか。連覇記録を更新するうえで「1年、損した」とか、「連覇回数が1回減る」とか、そういう思いはないですか?

目黒 自分は1年分、弱くなり、若い子は1年分強くなるのだから、より練習しなきゃな、と思うところはありますね。ただ、目の前の大会で勝つことしか、考えていないので、あまりあと何連覇するとか、そういうところまでは考えていないです。

――では、なぜ、世界選手権を終えた直後の大会も含め、大会への連続出場を続けるのですか?

目黒 昔からの習慣だからと言いますか……、逆にいえば、あまり出場しない理由が考えつかないんです。練習した技を試したくて試合に出ている……、あるいは、今、勝てているから面白いのかな……、「申込書が届いたら、書く」という感じになっていて。

――1回、大会に出場するのにそれなりに気持ちを張って、いろんなことを犠牲にしたりしているからこそ、その分、3シーズン続けて大会に出た後は、1シーズンは飛ばさないと集中力を保てないとか、そういう選手も多いと思うんですけど、そんなに緊張することもなく、自然体で大会に臨んでいる、と?

目黒 いや、毎回、凄く、緊張はするんです(苦笑)。

――あれ? そうなんですね。

目黒 もう尋常じゃなく。1回戦、2回戦だけは自分でも、いつ負けるか分かんないくらいです。いつも、先に効果を取られてしまって、残り30秒で取り返すとか、そんなのばかりです。

――なるほど。気楽に出てるんじゃなくて、とにかく、仕事が忙しかろうと、稽古ができていなくとも、高いモチベーションで試合に臨んでいるということなんですね。

目黒 押忍! 無差別大会は好きなんで、あって欲しいです。出たいです。無差別だと、自分、負けてもいい、好きなことしていいと思っているので気持ちが楽です。体力別だと、いろんな方面からの「負けちゃいけない」というプレッシャー、自分の中の負けられないという思いがあるので、ちょっと辛いですが。

――それでも、体力別も、引き続き、連覇記録更新を狙う?

目黒 押忍! そうですね。

――何連覇しようとか、あと何年は頑張ろうとか、プランはありますか?

目黒 まったく考えていないんですよね。自分、大会に出ないと、次に練習する技がみつからないタイプなので、大会に出ないと発見がないというか、なかなか出場しづらくなってきましたけど、本当は地区予選とかも出たいくらいで……。春の大会がなくなった後、岩﨑大河がプロの試合をしているのを視て、あぁいうのも面白そうだなぁとか思ったり。プロにどんな大会、試合があるのかもよく分かっていないんですけど。

――日々の技の探求・修練が本質であり、その質を高めるために‟試し合い“を行っているわけですね。仕事で多忙を極めていてもモチベーションを落とさない目黒選手の姿勢は、多くの空道愛好家への励みとなるかと思います。

目黒 押忍! 今年1年、もしかしたら2年くらいは大変かもしれないですけど、また普通に戻れば、そのときに力が発揮できるようになっていればいいと思います。

 (8月22日・電話取材)

 

目黒雄太(めぐろ・ゆうた)◎大道塾長岡支部所属。身長168センチ、28歳。2015年から2019年まで、全日本-230クラス5連覇。右ストレートの後に放つ右ハイキック、相手に蹴り足を掴ませてのパンチ、寝技で下になっての蹴り上げ……とトリッキーな攻撃を得意とし、2015年には全日本無差別でも準Vを収めている。

マスクを着用し、組手を行う

2.支部長の場合

加藤清尚

――コロナウィルス対策に関して、保健所から賞賛されたと聞きました。

加藤 あぁ。ZSTとかに出ている総合格闘技の選手が、8月末に試合があるというので週に2~3回、ほぼ、毎回うち(行徳支部)の稽古に出稽古に来ていたんだけど、8月9、10日のお盆の休みの前、8日に練習に来て、で、翌日から発熱とか症状が出てきた、と。で、保健所へ連絡して検査を受けたら陽性だったと。で、ウチに来る前に、水、木曜日だとか他のところに出稽古してて、そこではマスクはしていなかったそうで、水曜日に練習したときにパートナーが体調悪かったけど、無理して参加していたから、そこで遷ったのではないか、ということで、オレのところにも連絡が来て「大道塾でも練習させていただいていたので、一緒に稽古した方が濃厚接触者に該当するかもしれないので、保健所にオレの電話番号、教えてもいいですか?」と。「後で、PCR検査を受けるよう、連絡がいくかもしれません」と。で、オレと、稽古に参加していた何人かには保健所から連絡があって、うちの練習における対応、全員がマスクを着用して稽古していることとか、常に換気をしてることとか、アルコールによる手指の消毒をこまめに行っていることとか、使用後にミットやグローブ類や床にスプレーして拭いていることとか、……具体的に細かいところでいえば、マウスピースを着脱する際は口の中に指を入れるわけだから、マウスピースを着脱する度に、手指の消毒をさせているとか、その際の順番も、ヘッドガードとサポーター類を先に外して、その後に、手指を消毒してから、マウスピースを外すようにしているとか……それを保健所に伝えたら「医療用のマスクをしている時点で濃厚接触者には該当しません。PCR検査の必要はありません。そのまま継続してください」と。

――なるほど。

加藤 それで、オレも含め、PCR検査は受けていないんだけど、それでも、勤務先から「そういう状況にいたのであればPCR検査を受けなさい」と要請があって、検査を受けた生徒もいたけど、やはり陰性だった。それで、今まで続けてきたことは間違っていなかったんだなぁということと、間違ってなかったにしても、これからも気を引き締めて行かなきゃな、ということをみんなで話したよ。

――より詳しく稽古中に実施しているコロナ対策について教えて頂けますか。

加藤 まず、緊急事態宣言が出た4月7日から5月いっぱい活動は休止して、スポーツクラブの営業が認められて、練習場所であるゴールドジムが営業を再開したのに合わせ、稽古も再開したんだけど、ゴールドジム自体、入館時に非接触式体温計で体温を測って記名を求めるようになった。換気は換気扇を回して、2方向以上、窓を開けて。ただ、気温があまりに高い期間は、冷房を「最強」にして、一旦、窓を全部閉めて、室内を冷やしつつ、20分ごとに窓を開けて空気を入れ替えるとか、こまめな水分補給をするとか、熱中症対策とのバランスを取っている。やっているメニュー自体は普段通りだけど、稽古再開後は、体力の低下とマスク着用の分、各ラウンドの時間を短くし、徐々に伸ばしていった。6月は2分、7月は2分30秒、8月から普段通り3分という感じ。稽古中も稽古参加者は全員、対人でない稽古においてもマスク(医療用マスクなど、口と鼻を覆う一般的なもの)を着用し、対人練習(ミット練習、組み技の打ち込み、マススパーなど)においてはヘッドガード(プラスチックシールド付きの面)もしくはマスク、どちらかを着用し、飛沫が飛ぶことを極力抑えるようにしていて。それで、ヘッドガードやマスクを外すときは人のいない方を向くとか。

――ヘッドガード(プラスチックシールド付きの面)には、マスク同様、飛沫感染の確率を減らすメリットが見込まれるわけですね。

加藤 フルコンタクト空手の団体でも、練習でお面(プラスチックシールド付きの面)を被るようにし始めているね。

――そう考えると、競技自体がヘッドガード着用の空道は、ウィズコロナの時代において、むしろこれまで以上に、社会に必要とされるとなるのかもしれませんね。……稽古休止期間があったこと、試合の予定がない期間となったことで、メニューを変えましたか?

加藤 技術面では変えていないけど、フィジカルでは、体力を戻す基礎的なことから始めた。あとは、まずは、対人の勘、ディフェンスに主眼を置いて。

――生徒のみなさんのモチベーションはいかがでしたか?

加藤 休んでいたから「練習したい!」という気持ちが高ぶっていたようで、退会者も転勤となった人以外はほぼゼロ。稽古再開と共に、戻ってきて、新規の入門者も増えている。みんな、意欲は変わらない。

――今後に向けて、空道の選手、大道塾の塾生へ、メッセージを頂けますか?

加藤 必要以上に怖がらず、どういうことで感染リスクが高まるのかをよく理解して、稽古で感染を広げないように気をつけることでリスクを減らして、練習していくしかないんで、頑張りましょう! と。会話したときに飛沫感染するとか、ウィルスがついたものを触った手で顔を触ったりすることによる接触感染が多いそうなので、その率を下げるだめの努力をすることかな、と。

――そうやって、正しく努力しても100%感染を防げるわけではないので、できる努力をしたうえで感染してしまった人や、しっかりと対策を採ったうえで感染者が出た道場を責めるべきではなく、むしろ体調の悪さを感じて早期に検査受診→結果報告した道場生や、陽性者が出たことを即座に連盟に報告した支部は「正しい対応をした」と評価されるべきともいえるでしょうか。

加藤 正しく怖がることが必要だよね。「あそこが出たから『わ~!』」ってならずに。未知の部分があるのは確かだけど、おおげさには考え過ぎず、罹るときには罹るし、おおかたそれは無症状や軽症だろうし。だからといって、手を抜くことなく、それを人に遷さないための策をきちんとする、と。そうオレは思うよ。
(8月22日・電話取材)

加藤清尚(かとう・きよたか)◎大道塾東中野・行徳支部支部長。163センチの身長ながら、91年全日本無差別優勝、91年の-230クラス、93年の-250クラス、01年の-240クラスと併せ、全日本4階級制覇。キックボクシング、ムエタイにおいても世界タイトルを獲得している。

マスクを着用し、ミット打ちを行う道場生たち

ヘッドガードを着用し、サンドバッグ打ちを行う道場生